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第四十話 挑発

「リザードマンの村を襲うって……一体何のために?」


 理由が分からないエルシーネが疑問を投げかける。


「我々に見せつけるためにです」


「……まさか!」


 ダーヴィス将軍の返答を聞いて、エルシーネの表情が固まった。さすが帝国十輝将のひとりだ。ダーヴィス将軍の言わんとすることがすぐに分かる。


「私たちを挑発するために?」


「リザードマンの村は舗装した道沿いにありました。当然、吸血鬼(ヴァンパイア)たちは我々が村へ立ち寄ると思っていたはずです」


 ダーヴィス将軍は直接には答えない。しかし、エルシーネの疑問は確信に変わった。


「リザードマンたちが殺されて間もなかったのは、私たちに気づかせるため」


 ダーヴィス将軍たちが冥々の大地に入ったことを知って、吸血鬼(ヴァンパイア)たちはリザードマンの村を襲ったのだ。

 敢えて挑発するために。


「それが本当なら、絶対に許せないわ!」


 エルシーネの怒りにダーヴィス将軍も頷くが、その直後急に表情が固まる。



「……しまった!」


 次の瞬間、ダーヴィス将軍は魔法の家(マジック・ハウス)から飛び出すと、外に繋いでいた馬に飛び乗り、夜の森の中に消えていった。


「ちょ、ちょっと、ダーヴィス将軍!」


 突然のことに慌てて声を投げたエルシーネだったが、ダーヴィス将軍にはもう届いていない。

 何が起きたのか分からないエルシーネだったが、シャスターとレーゼンはダーヴィス将軍の「しまった!」の言葉の意味をすぐに理解した。


「なるほど……そういうことか」


「はい。私たちも急がないと!」


 二人の会話中に、すでに星華は動き出していた。いつの間にか、この場から消えている。おそらくダーヴィス将軍を追ったのだろう。



「シャスターくん、どういうこと?」


 ひとりだけ状況が理解できていないエルシーネがシャスターに詰め寄る。


吸血鬼(ヴァンパイア)が俺たちへ挑発のためにリザードマンの村を襲ったのなら、他の村も襲われる可能性が高い」


「あっ!」


 ようやくエルシーネも気づいた。

 ダーヴィス将軍の話では、ここから半日進んだ先に人間の村があるということだった。


「ダーヴィス将軍に追いつかないと!」


 すぐに三人は家の外に出ると、エルシーネが魔法の家(マジック・ハウス)を仕舞い込んで馬に乗り込む。

 シャスター、レーゼンも馬で駆け始めていた。




 舗装されている道は一本道だ。後から追いかけてきたシャスター、エルシーネ、レーゼンは、ダーヴィス将軍にやっと追いついた。ダーヴィス将軍は、後から三人が追いかけてくることが分かっていたので、馬の速度を少しだけ落としていたのだ。星華はすでにダーヴィス将軍の背後に馬をつけて駆けている。


「ダーヴィス将軍、無茶をしないでよ!」


 エルシーネが本気で怒っている。いくら慌ててたとはいえ、ひとりで勝手に飛び出すなど言語道断だ。


「皆さま、申し訳ありません」


 ダーヴィス将軍は全面的に自分の非を認めた。エルシーネが言っていることは全く持って正しいからだ。

 自分がしたことは十輝将としては無論、一人の戦士としても許されないことだ。一人の身勝手な行動によって、パーティー全員が全滅することだってある。

 それを分かっていながら、飛び出してしまったのだ。

 何が智将だと、ダーヴィス将軍は心の中で自分自身を激しく咎めていた。



「まぁ、ダーヴィス将軍の気持ちも分かるわ。村人は知っている人たちなんでしょ? 焦るわよね」


 ダーヴィス将軍の気持ちを察して、怒るだけではなく、さりげなくフォローをするあたりが、エルシーネの良いところだ。


「エルシーネ皇女殿下……」


「それにしても、知略型だと思っていたけど、意外と激情型なのね。兄とは違ってホッとしたわ」


 エルシーネが冗談混じりに笑う。だが、ダーヴィス将軍にとっては救われた気持ちだった。


「……ありがとうございます」


 気持ちを切り替えると、ダーヴィス将軍は先頭に立ち、再び馬の速度を上げた。



 道が整備されているとはいえ、夜の森を馬で駆けることは危険を伴う。シャスターの魔法で周辺が照らされているとはいえ、森全体が暗闇だ。

 しかし、五人は並大抵の者たちではない。暗闇の中をものともせずにさらに速度を上げて駆けていく。


 その中でも特に圧巻だったのが星華だ。


 「先に行きます」


 言葉少なくシャスターに伝えると、星華は馬から飛び降りて自らの足で走り始めた。

 しかも、全力で走っている馬よりも速く駆け抜けて行く。


 瞬く間に、先頭を走っていたダーヴィス将軍よりも先に出た。


「せ、星華さん!?」


 エルシーネは目を丸くして唖然としたが、彼女だけではない。ダーヴィス将軍もレーゼンも驚きの表情になっていた。

 全速力の馬よりも速く走る人間が目の前にいるのだ、驚かない方がおかしい。


 これが全職業中、最速を誇る忍者、さらにその最上位クラスの「くノ一」の実力なのか。

 三人はその能力をまざまざと見せつけられたが、すでに星華は皆の視界から消え去った後だった。




 シャスターたち四人は日付が変わってしばらく経った頃、人間の村の付近まで来ていた。

 元々は翌日の昼間に半日掛けて到着する予定だった村だ。それを暗闇の中、しかも僅か数時間で到着してしまった彼らの馬術スキルは相当なものだった。



「そろそろ着きます」


 案内役として先頭を駆けているダーヴィス将軍は、舗装された道から少し外れて進む。すると、森が開けた場所に出た。

 さらにしばらく走ると、いくつもの家屋らしき建物が見えてきた。人間の村だ。


 深夜なので村は静まり返っているが、リザードマンの村とは違い、家の外に死体が転がってはいない。

 ホッとしたダーヴィスが胸を撫で下ろす。


 その直後だった。


 微かに何か匂いがしてくる。

 この匂いは……。


 血だ。



皆さま、いつも「五芒星の後継者」を読んで頂き、ありがとうございます!


「五芒星の後継者」を投稿し始めて、今週で一年が経ちました。

一年前に始めた時、「読んでくれる人いるのかな?」と不安に思いながら初投稿したことを覚えています。

しかし、その後、たくさんの方々に読んで頂き、ブックマークが360超、累計PVアクセスも18万を超えるまでとなりました。

物語も総数372話まで続けることができています。

皆さまのお陰です。

本当にありがとうございます。


読んで頂いている皆さまがいるからこそ、それが私のモチベーションとなり、頑張ることができています。

心から皆さまに感謝です。


引き続き、これからも「五芒星の後継者」を更新していきますので、読んで頂けたら嬉しいです。


どうぞ、これからも宜しくお願いします!



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