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第三十八話 リザードマンの村

 リザードマンの村の家は元々粗末な造りだったのだが、ダーヴィス将軍が派遣した技術者たちのおかげで石造りのしっかりとした家になっている。

 そんな石造りの家の中でも一際大きな家の扉をダーヴィスは思いっきり開けた。


「長老!」


 しかし返事はなく、そこには数人のリザードマンと老いたリザードマンが椅子に横たわり殺されていた。


「誰がこんなことを……」


 ダーヴィス将軍の脳裏に半年前この村に来た時のリザードマンたちの光景が横切る。

 村もだいぶ発展し、長老のリザードマンに感謝されたばかりだった。そして、これからもますます発展していくはずだったのだ。

 それなのに、こんなことになるなんて……。



「生存者はいないわ」


 エルシーネがダーヴィス将軍に静かに声を掛けた。ダーヴィス将軍が村長宅へ入った後、エルシーネたちは手分けして村の中を探索していたのだ。

 小さな村なのですぐに調べ終わったが、残念ながら生き残りはいなかった。


「まだ死後硬直が起きていません。殺されてからあまり時間が経ってはいないようです」


 レーゼンがリザードマンの死体を確認する。さらに身体の傷口を見ると、剣で一撃で殺されたようだ。しかも、背後から斬られている死体がほとんどだ。


「背後からの一撃ということは、リザードマンたちが用心していなかったということ。魔物たちが村を襲撃してきた可能性は低いと思います」


 レーゼンの説明に皆が納得した。

 村を魔物が襲ったのであれば、リザードマンたちは戦う姿のまま死んでいるはずだ。しかし、誰一人として武器を持っている者がいない。

 さらに背後から斬られたとなると、リザードマンたちは気心知れた者によって突然殺されたということだ。



「この村に住んでいたリザードマンたちと交流があった者は限られてきます」


「その交流があった者は?」


「まずは同族のリザードマンです。ここからかなり離れていますが、冥々の大地の南西部にはあと二ヶ所、リザードマンの村があります。また、ここから半日ほど進むと人間の村があり、そこの住人たちとも交流はありました。それと、他に交流があったのは幾つかの獣人族ぐらいでしょうか……」


 話しながらダーヴィス将軍はあることに気付き、再び口を開いた。


「そして、もちろん南西部の支配者である吸血鬼(ヴァンパイア)とも交流はありました」


 犯人はその中の種族に違いない。一行は重い空気のまま、一旦村の入口へと戻った。



「リザードマンたちを天に還してあげませんか?」


 このままではあまりにも可哀想だ。種族が違うとはいえ、平穏に暮らしていたリザードマンが突然殺されたことにレーゼンは心を痛めていた。


 レーゼンは手を合わせ祈りの言葉を捧げ始めた。レーゼンは聖騎士であり高位の神官でもある。

 彼女の祈りの言葉に合わせるかのように、三十体のリザードマンたちの死体から無数の光の粒子が空に向かって昇天していく。

 その光景はあまりにも美しく、そして哀しいものだった。



火炎の嵐(ファイア・ストーム)


 光の粒子が消え去った後、シャスターが放った炎の嵐が村を燃やす。

 炎は村中の全てを燃やし尽くし、炎の消えた後は何も残らない。



「一体何が起きたというの?」


 焼け野原になった村を見ながらエルシーネが呟くが、誰も答えることができない。



 衝撃的な状況に遭遇した一行だったが、まだそれは始まったばかりであった。




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