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第三十七話 急変

「噂に違わぬ強さだな」


「剣技、神聖魔法、そして武法をそれぞれ見せてくれるなんてサービスが良いのね」


 エルシーネとダーヴィス将軍がレーゼンの戦いを見て賞賛する。


「いえ、相手がたまたま相性の良いアンデッドだったからです」


 二人の将軍に賞賛されてレーゼンは恐縮した。しかし、それが謙遜だとここにいる誰もが分かっている。スケルトンとの戦いでレーゼンは全く実力を出していなかった。ただの肩慣らし程度であろう。パーティーとしてとても頼もしい仲間だ。



「もし、吸血鬼(ヴァンパイア)と戦うことになっても聖騎士のレーゼンひとりで十分だね」


 元々、ラクをしようとしているシャスターが喜ぶ。彼としては大勢の敵と戦う等々、面倒なことはしたくないのだ。

 そんなシャスターが何かに気付いてダーヴィス将軍に質問する。


「もしかして、このスケルトンたちって吸血鬼(ヴァンパイア)が襲わせたの?」


 アンデッド最上位の吸血鬼(ヴァンパイア)がスケルトンに襲わせるように命令をしたということなのだろうか。

 シャスターはそう推測したが、ダーヴィス将軍はそれを丁寧に否定した。


「いえ、関連性はないと思います。冥々の大地には多くの魔物も住んでいます。スケルトンもその一つです。我々がスケルトンと遭遇したのはたまたまでしょう」


 過去にもダーヴィスは冥々の大地で様々な魔物と遭遇しており、スケルトンとも何度も戦闘になったことがあった。そして当然ながら、その時も吸血鬼(ヴァンパイア)が命令したというわけではなかったからだ。



「もちろん、吸血鬼(ヴァンパイア)たちの方針が変わったとしたら、可能性はありますが」


 今回の魔物の(ロード)化が本当に吸血鬼(ヴァンパイア)たちの仕業だとすれば、帝国との関係を友好的から敵対に方向転換したことになる。

 それを確認、調査するためのパーティーなのだ。



「この先に湿地帯あります。そこにリザードマンの村がありますので、まずはリザードマンの反応で確かめてみましょう」


 リザードマンとは人間に似た二足歩行の種族だ。池や湖などの水辺に住んでいて、知性もあり人間とも話せる。

 また、リザードマンは比較的温厚な性格の者が多く、他種族とも良好な関係を築いている場合が多い。冥々の大地の南西部に住んでいるリザードマンたちも温厚であった。

 そして、南西部に住んでいる知的種族ということは、当然吸血鬼(ヴァンパイア)の支配下にあるということだ。


 ダーヴィス将軍たちが村に着いた時、リザードマンたちが今まで通り友好であれば問題なし。逆に襲って来るようであれば、吸血鬼(ヴァンパイア)が方向転換したことになる。



「リザードマンって、全身が鱗のあのトカゲ人間よね……」


 エルシーネは少しだけ嫌そうな顔をした。彼女はリザードマンの見た目が苦手だったのだ。

 リザードマンは強靭な肉体と腕力を持つ種族のため、冒険者や傭兵としても重宝されている。そのため、帝都エースヒルでも見かけることが多い種族であった。

 しかし、そんなリザードマンを帝都で見かけても、エルシーネは回れ右をして、できるだけ避けていたのだ。


「そう毛嫌いしないでください。とても穏やかな種族ですよ」


「……分かっているわよ」


 ここでワガママを言わないのがエルシーネの良いところだった。「絶対にイヤ」とか「行きたくない」とか言いそうに見えるが、そこは十輝将のひとりだ。我を通すことはない。渋々だが承諾をする。



「リザードマンの村には今夜着く予定です。村に着いたら、泊めてもらうことにしましょう」


「あ、私は自分の魔法の家(マジック・ハウス)で」


 速攻で断ったエルシーネを笑いながら、一行は森の中を進み続けた。





「これは、一体……」


 目の前に広がる光景に、さすがのダーヴィス将軍も驚愕のあまり呆然としていた。

 いや、ダーヴィスだけではない。エルシーネもレーゼンも、そしてシャスターもだ。


 

 リザードマンの村に到着した彼らが見たもの。


 それは、リザードマンたちが惨殺されていた光景だった。



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