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第三十話 ペガサスの特性

 ペガサス騎士団の副騎士団長は、今回エルシーネが冥々の大地に行くことを会議が終わった後に聞かされていた。


 昨日帝都に戻ってきたばかりなのに今日また出発とは慌ただしい限りだが、皇女殿下にとっては毎度のことなので特に驚きはしない。


「頼んだわよ」


「はっ!」


 騎士団長室で副騎士団長が騎士団長のエルシーネに敬礼する。

 しばらくの間、エルシーネは留守になる。その間は副騎士団長がペガサス騎士団をまとめることになるからだ。


「それとお願いがあるんだけど」


「何でしょうか?」


「あなたのペガサスを少しだけ貸してくれない?」


 エルシーネはその理由を話した。



「分かりました」


 重大な任務ということで、副騎士団長は自分のペガサスを貸すことを快く承諾してくれたが、問題はペガサスとの相性だ。ペガサスの背に乗せられる人数はせいぜい二人までだ。

 そこで、エルシーネは自分のペガサスにレーゼン、副騎士団長のペガサスにシャスターと星華を乗せることにした。

 しかし、副騎士団長のペガサスは比較的おとなしい性格なのだが、やはりシャスターが騎乗しようとするだけで暴れ出す。


「やはり、こうなるわよね……」


 エルシーネがため息を吐く。

 それであれば仕方がない。極秘任務のため、あまり多くの者に知らせたくはないが、あと二人の騎士団員を連れて、それぞれの背にシャスターと星華を乗せて冥々の大地へ向かうしかない。

 エルシーネがそう思った時、ひとりの少女がシャスターの影から現れた。



「私がやってみます」


 星華はペガサスのたてがみを撫でながら静かに何か語りかける。それから、ペガサスに足をかけると一気に騎乗した。

 すると、ペガサスは暴れるどころか、首を星華に擦り付けて甘える仕草をしている。


「えっ、なんで!?」


 エルシーネは驚いた。ペガサスが初めて会った人間に心を許すなど有り得ないからだ。

 しかし、目の前には楽々と騎乗している星華がいる。


「お願いしました」


「ちょ、ちょっと待って。お願いしたって? 星華さん、ペガサスの言葉が話せるの!?」


「いいえ、話せません。精神を繋いでみました」


「精神を繋げる!?」


「はい。それで気持ちを伝えたのです」


「そんなことが……」


 慌てているエルシーネと、いつも通り冷静沈着の星華の対比が面白く、シャスターは笑っていたが、それを見たエルシーネが詰め寄る。


「笑ってないで説明して! シェスターくんも知っていたの?」


「俺は知らないよ。でも、一流の忍者は精神感応で動物を使役することが出来ると聞いたことがある。星華はさらに最上級の『くノ一』だ。ペガサスに乗れても不思議じゃない」


 シャスターの説明でとりあえず納得したエルシーネだったが、副騎士団長は呆然としたままだ。自ら手塩にかけて育てたペガサスが、初めて会ったばかりの少女に心を許している光景を見れば、誰だってそうなってしまうだろう。



「それじゃ、あとは頼んだわよ」


「あ……は、はい! お気をつけて」


我に帰った副騎士団長がエルシーネたちに頭を下げた。



「行きましょうか」


レーゼンがエルシーネの背中に掴まって乗り、シャスターは星華の背中に掴まって乗った。

 すると、ペガサスは地面を数回駆けたと思うと、そのまま宙を駆け出し空に上り始めた。



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