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第二十九話 クーゼンへ  &(帝国北MAP)

「以上がイルザーク将軍からの情報だ」


 エーレヴィンは映像を切ると、しばらくの間、重い沈黙が室内を満たした。



「なんでこのタイミングで、あの()が?」


「それは、こっちが聞きたい」


 エルシーネの問いかけに、エーレヴィンは頭を軽く横に振る。彼の情報収集力でも、彼女の行方は把握出来ていなかった。



「まだ性懲りも無く、シャスターくんを?」


「おそらくは、そうだろうね」


 シャスターの表情も暗い。

 もし、この場にカリンがいたら驚くはずだ。シャスターのこんな顔を見ることはなかなかないだろう。


 レーゼンだけは話の内容が分からずにいるが、皇帝の御前だ。聡明な彼女は話の腰を折る真似はせずに黙って聞いていた。



「すぐにクーゼンに向かった方がいいわね」


 エルシーネがため息混ざりに提案する。

 明日の早朝出発だったが、そんな悠長なことを言ってはいられなくなった。今すぐに出発しなくてはならない。


「ホールン山脈は険しい山々よ。だから、北部の国境都市ルズから北東部の国境都市クーゼンに向かう場合、大陸街道を南に降りてホールン山脈を大きく迂回しなければならない。だから、ここ帝都からクーゼンに向かうのと日数的にはあまり変わらないはずだけど」


 しかし、それは一般的な話であった。


「当然、あの()には険しい山脈なんて関係ない。ホールン山脈を越えてくれば、私たちよりあの娘の方が早く着くでしょうね」


 先にクーゼンに着かれてしまったら、どうすることもできない。クーゼンを拠点とするダーヴィス将軍も、彼女に対しては無下に接することができない。



「俺はそのまま逃げればいいけど……」


「問題は私よね。かなり恨まれているはずだから」


 そうなってしまったら、冥々の大地への調査は中止となってしまう。

 魔物の(ロード)化や不死者(モルス)の襲撃の犯人も分からぬままになってしまうだろう。

 エースライン帝国としては、それだけは何としても避けたい。


「そこで、ペガサスを使うことを許可する」


「えっ!?」


 エルシーネは一瞬、兄の言葉の意味を把握出来なかった。シャスターたちをペガサスに乗せるということか無茶だということを知らぬ兄ではない。


「でも、ペガサスを他の人に乗せることは……」



 ペガサス騎士団は急行直下の戦いに向いている集団だった。

 高速に移動できる機動力は、戦場をいち早く制圧することが可能であり、事実アイヤール王国の時もまさに電光石火のごとく現れその場を制してしまった。ペガサス騎士団は何処へでも即座に投入できる遊撃隊として帝国内でも貴重な存在なのだ。だからこそ、ペガサスでクーゼンに向かえば、先に着くことは可能だろう。

 しかし、そのためには大きな問題がある。


 その問題とは、容易にはペガサスに騎乗できないということだ。

 そもそも、ペガサスは希少であり貴重な獣だ。さらにペガサスは人に懐かないため、騎士団員は幼少のペガサスを精一杯の愛情を注いで育てていき、何年も掛けてやっと意思疎通が図れるのだ。

 昨日今日の訓練程度ではペガサスに騎乗することさえ出来ない。



「無理にでも騎乗するしかあるまい」


「……分かりました」


 あの娘と会うわけにはいかない。会ってしまったら大変なことになる。

 ペガサス騎士団長としては他人をペガサスに乗せることに複雑な心境だったが、やむを得ない。


「それではすぐ出立します」


「皆の幸運を祈る」


 シャード皇帝との挨拶が終わり謁見の間を出ると、エルシーネたちはそのままペガサス騎士団の館に向かった。





♦♢♦♢♦ エースライン帝国北部 MAP ♦♢♦♢♦

 

挿絵(By みてみん)


皆さま、いつも「五芒星の後継者」を読んで頂き、ありがとうございます!


さて、シャスターたちが冥々の大地に向かうとする直前に、また新たなる問題が起きたようです。

謎の少女とは、一体何者か?(第五章の最初の方にも少しだけ登場しましたが)

シャスターたちとの関わり合いは?

等々、これからも楽しんで貰えたら嬉しいです。


また、今回シャスターたちや謎の少女の動きが分かりやすいように、帝国北のMAPを掲載しました。

毎回EXCELの拙い地図で申し訳ありませんが、少しでもイメージの足しにして頂けたらと思います。


それでは、これからも「五芒星の後継者」をよろしくお願いします!


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