第二十七話 出発の前
カリンと別れた後、シャスターたちは皇宮へ向かった。シャード皇帝に出発の挨拶をするためだ。
その途中、シャスターはレーゼンに星華を紹介した。シャスターの影から突然現れた星華に驚いたレーゼンだったが、イオの後継者を守る守護者の存在は聞いていたのですぐ平静に戻れた。
「なんとか約束の時間に間に合った」
シャスターたちは皇宮の入口に着いた。
時計の針は午後五時を差すところだった。さすがに皇帝と会うのに遅刻は良くないことをシャスターも承知している。
門番の騎士たちから敬礼を受けながら皇宮へと進むと、すでに謁見の間には皇帝とエーレヴィンが待っていた。
シャスターは立ったままだが、彼の左右と後にいるエルシーネとレーゼン、星華は片膝をついて頭を下げる。
「予定通り、明日の早朝冥々の大地に向かいます」
「ファルス神教の祝福者の件は大丈夫だったようだな」
「カリンなら大丈夫ですよ」
シャスターは確信していた。どんなにキツイ修行でも、カリンなら必ずやり遂げるだろうと。
「シャスター殿。会議でも話したが、全ての責任は私が取る。そなたの好きなように行動して欲しい」
「まぁ俺もできることなら、穏便に済ませて早く戻って来たいですけど」
シャスターは他人事のように話すが、実際どうなるのか全く分からない。
冥々の大地は広大だ。しかも、相手は吸血鬼である可能性が高い。そのため、どのくらいの期間が掛かるのか、想像もできないからだ。
だからこそ、一日でも早く出発する必要があるのだ。
シャード皇帝は続いて、シャスターの隣に座っている者に視線を向けた。
「ファルス神教騎士団のレーゼン殿が加わってくれたとは。感謝する」
「私こそ、足手まといにならぬ様、精一杯努めさせて頂きます」
シャード皇帝に対してレーゼンは深々と頭を下げた。
「よろしく頼む」
シャード皇帝はその後、星華とエルシーネとも言葉を交わしていく。
そして出発の挨拶が終わり、シャスターは皇帝の横にいるエーレヴィンに視線を向けた。
せっかくなのでエーレヴィンとも話をしようとしたのだが、いつもと少し雰囲気が違う。どうしたのかと思った矢先、エーレヴィンが口を開いた。
「実は先ほどエースライン帝国の北部を守護しているイルザーク将軍から緊急連絡があった」
またも魔物の王化でも起きたのかと思ったが、大胆不敵なエーレヴィンがその程度で困惑するはずがない。
(何か重大な出来事が起きたな)
他人事の不幸は蜜の味と言わんばかりに心の中で笑ったシャスターだったが、その不幸はブーメランとなって、この後に無常にもシャスター自身へと突き刺さることになる。
「まずは録画したイルザーク将軍の報告を見てほしい」
シャスターたちは流れ始めた映像を見始めた。




