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第二十四話 出会いと別れ

「分かりました。カリンさん、頑張りましょう」


「よろしくお願いします!」


「でも、その前に」


 二人のやりとりを面白そうに見ていたクラム大神官長が机の上の呼び鈴を鳴らす。すると、すぐに扉を叩く音が聞こえた。



「失礼します」


 そこに現れたのはひとりの女性だった。

 耳にかかる程度の濃青色(ダークブルー)の短めな髪に同じ色の目、そして何より長身で引き締まった肉体が、見るものを圧倒する。


「あなたはレーゼン副騎士団長!」


「お久しぶりでございます。エルシーネ皇女殿下」


 副騎士団長と呼ばれた女性は頭を下げた。



「カリンさんが抜けた穴を埋める為、レーゼン副騎士団長を皆さんのパーティーに同行させようと思います」


 クラム大神官長に提案にエルシーネは驚く。


「でも、レーゼンはファルス神教騎士団の要でしょ?」


「だからこそです。カリンさんの代わりに強力な神聖魔法を使える者としてレーゼン副騎士団長を選びました。それに彼女は吸血鬼と戦った経験もあります。吸血鬼に関しての知識は帝国一であり、私以上の知識の持ち主です。きっと今回の旅でお役に立てることでしょう」


 今朝の会議でクラム大神官長が「吸血鬼に詳しい者がいる」と話していたのは、レーゼン副騎士団長のことだったのだ。



「シャスター様、同行をお許し頂けるでしょうか?」


「もちろんだよ。でも、本当にいいの? 今、ファルス神教騎士団は騎士団長も他国にいて不在なんでしょ。副騎士団長までいなくなったら、大変なんじゃない?」


 クラム大神官長に尋ねながらシャスターはチラッとエルシーネを見た。


「心配して頂きありがとうございます。ただ、ファルス神教騎士団は個々の能力が高く、命令系統もしっかりとしていますので問題はありません。もちろん、すでに騎士団長にも連絡済みで、許可を頂いております」


「それであれば、喜んでお願いする」


 シャスターとしてもファルス神教騎士団の実力者が同行してくれるのはありがたい。

 エースライン帝国には十輝将などの帝国が保有する軍事力とは別に、幾つもの独立した武力が存在する。その一つがファルス神教帝国本部が持つファルス神教騎士団であった。

 ファルス神教騎士団は全員が神聖魔法を扱える神官であるのと同時に、騎士としての訓練を受けている聖騎士だ。つまり、剣で戦いながら神聖魔法も使うことができる強力なエリート集団であった。

 そんなファルス神教騎士団の副騎士団長がレーゼンだ。それだけでも並大抵ではない能力の高さが伺える。



「そんなにも凄い方が私の代わりなんて……」


 自分とのトレードなんておこがましいと恐縮したカリンだったが、レーゼンが優しく声をかけた。


ファルス神教の祝福者(ファルス・ブレッサー)の代わりを務めることは無理だと承知しているが、私は私なりに全力で務めを果たすつもりだ。カリン殿も安心して修行に励んで欲しい」


 かなりの実力者のはずなのに落ち着いた謙虚な態度であった。

 到底真似できない大人の魅力を持っているレーゼンをカリンはカッコいいと思った。


「は、はい。私も頑張ります」


「カリンと比べものにない優秀な神聖魔法の使い手(ホーリー・ユーザー)で良かったよ。カリンは本当にお役御免になりそうだね」


「シャスター!」


 カリンがまたもや怒り出す。そんな光景を見ながらレーゼンは微笑んだが、すぐに気を引き締めるとシャスターの正面に立った。



「シャスター・イオ様。改めまして、ファルス神教騎士団の副騎士団長を務めておりますレーゼンです。以後宜しくお願い致します」


 レーゼンは優雅な動作で深々と頭を下げた。


「こちらこそ、よろしく。それと、そんなに畏まらなくていいよ」


「ありがとうございます」


 今度はそこまで深くならないように頭を下げた。



 レーゼン副騎士団長の紹介が終わったところで、クラム大神官長との話も全て終わった。


「それじゃ、クラム大神官長、あとは頼みます。カリン、元気で」


 シャスターがカリンに軽く手を振りながら部屋から出て行った。


「えっ!?」


 それは、あまりにも呆気ない別れだった。

 突然の出来事にカリンは呆然としてしまった。先ほどカリン自身が「すぐに修行する!」と啖呵を切ったが、あれはシャスターの挑発に対しての売り言葉に買い言葉だ。いつもの言い争いだと思っていたのに、まさか本当に今すぐに別れるとは、カリンは思ってもいなかった。


 シャスターたちが冥々の大地に出発するのは明日の早朝だ。次はいつ会えるのかも分からない。

 だからこそ、今日ぐらいは一緒に居てくれてもいいのに……。


「シャ、シャスター……」


 追いかけようとして扉に手を掛けたが、カリンはそれ以上言葉が続かず、扉を開けることもできなかった。

 本当は「もう少し別れの時間があってもいいんじゃないの!」と大声で叫びたかったのたが、なんとなく悔しくて出来なかったのだ。


 そんなカリンの視界がぼやけてきた。いつの間にか、涙で滲んでいたからだ。


 足手まといだったかもしれないが、レーシング王国からずっと一緒に旅をした仲間ではないか。こんな突然の別れで、シャスターは悲しくないのか。

 あるいは自分がそう思っているだけであって、シャスターにとっては自分との別れなど大したことではないのだろうか。


 カリンの心の中を様々な感情が駆け回る。



「あ、あれ? どうしちゃったんだろう……」


 カリンの目から大粒の涙が溢れ出した。




皆さま、いつも「五芒星の後継者」を読んで頂き、ありがとうございます!


さて、冥々の大地に向かう新たな仲間として、ファルス神教騎士団のレーゼン副騎士団長が登場しました。

全員が聖騎士で編成されているエースライン帝国でも最強の騎士団の一つファルス神教騎士団、その副騎士団長がレーゼンです。


そして、もう一つ。

カリンが修行に入る為、一旦お別れとなります。

本文では、シャスターが冷たい対応のようですが……

きっとカリンはパワーアップするはず(?)ですので、こちらの方も楽しみにして貰えたらと思っています。


第五章では今回の出会いと別れを含めて、大きな動きが幾つも出てくると思います。


これからも「五芒星の後継者」をよろしくお願いします!





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