第二十三話 仲の悪い?二人
「その方法とは、カリンさんがデーメルン神の信力に拮抗できるほどの力を身につけることです」
クラム大神官長は力強く断言した。
「そのためには、十一神の神聖魔法を使えるようにならなくてはなりません。カリンさんには修行で自身の信力を強力にしてもらいます」
「はい」
クラム大神官長の言っている意味はカリンにも分かる。
確かに、十一神の信力を使いこなすことができれば、デーメルン神の禍々しい信力に抗うことができるかもしれない。
ただし、今のままのカリンの信力では到底デーメルン神には敵わない。
アークスから受け取った信力のおかげで、カリンは信力レベルが三十五まで急激に上がった。
しかしそれは、例えて言えば、大量のワインが入った巨大な樽を受け取ったに過ぎない。中身のワインはまだ熟成されていない状態なのだ。
クラム大神官長が「信力レベル三十五ですが、神官レベルは三十五ではありません」と言ったのは、そういうことであった。
そのため、修行してワインを熟成させる必要があるのだが、幸運なことに十一神と契約したカリンであれば、修行次第で最高級のワインに仕上げることが出来るのだ。
「十一神の信力を満たした状態で、もう一度デーメルン神の信力に触れるのです。十一神全員の信力で挑めば、デーメルン神の信力に勝るかもしれません」
しかし、これは賭けだと、クラム大神官長は付け加えた。
「無論、敵わないかもしれません。それ場合、カリンさんが命を失う可能性もあります。だから、私は強制することは出来ません。カリンさんの気持ちを尊重……」
「やります!」
「えっ?」
カリンの即答にクラム大神官長は少し戸惑った。
「とても重大なことです。すぐに答えを出さなくても良いのですよ。よくよく考えて……」
「やります!」
もう一度、カリンは力強く頷いた。
フローレを助ける、そのための旅なのだ。
カリンはフローレに命を救ってもらった。今、自分の命があるのはフローレが身を呈して守ってくれたおかげなのだ。自分も同じように身を賭して全力を尽くすのは当然だ。
しかも、その可能性をカリン自身が持っているのならやらない理由がない。
「よく言った、カリン!」
今までずっと黙っていたシャスターが口を開いた。
「ほら、俺の言ったとおりでしょ? カリンは必ずやるって」
心配そうな表情を浮かべているエルシーネを見ながら、シャスターは笑った。
「クラム大神官長、カリンのことは任せました」
「分かりました」
「それじゃ、エルシーネ、行こうか」
「うん」
「カリンとはここでお別れだ」
「ちょ、ちょっと、ちょっと!」
慌ててカリンが話に割り込んだ。シャスターの話について行けていないからだ。
「私をどうするつもりなの?」
「どうするもなにも、今からここでカリンは修行だよ」
「えっ、今から!?」
まさか、すぐに修行が始まるということなのか、カリンは焦る。
「私たちは明日の早朝、冥々の大地に旅立つの。だからカリンちゃんも修行を頑張って!」
すでにシャスターとエルシーネの間では、カリンをクラム大神官長に預けた後、冥々の大地へ出発することが決まっていたようだ。
「えっ!? それじゃ、私が冥々の大地に一緒に行けないのは戦力外なんじゃ……」
「カリンちゃんが戦力外のはずないでしょ? 正直カリンちゃんには来て欲しいけど、カリンちゃんにとって神聖魔法の修行の方が重要だから、一緒に冥々の大地に行くことは無理だと言ったのよ」
エルシーネの笑顔を見て、カリンの肩の力が一気に抜けた。ずっと心の片隅にあった寂しい気持ちや悲しい気持ちが取り払われたからだ。
それと同時に込み上げてくる怒りがある。
「シャスター! 私のことを足手まといになるから連れて行かないって言ったわよね?」
「えっ、そうだっけ?」
「そうよ!」
「悪気があって言ったわけじゃない。カリンが心置きなく修行に集中できるために敢えてだよ」
そう言いながらシャスターは笑っている。
ほんと、この男は最低だ。戦力外通知を受けて落ち込んでいる自分を見ながら、内心で楽しんでいたのだろう。
「まぁ、修行頑張って。要領の悪いカリンのことだから修行は一年で終わらないだろうけど……俺のほうが先に魂眠の解決方法を見つけてしまうかもね」
そのうえ、挑発するような発言をシャスターが面白そうに言い放つ。
当然、カリンも負けてはいない。
「ふん! 一年も掛かるものですか。あんたが冥々の大地から帰って来る前までに修行を終わらせてやるから!」
「ほぉ、そりゃ楽しみだ」
シャスターがニタニタ笑う。それがさらに無性に腹が立つ。
こうなれば、一日でも早く修行を始めなくてはならない。
「クラム大神官長、修行をお願いします!」
カリンはクラム大神官長に勢いよく頭を下げた。




