第十七話 様々な種族
人通りの多い中、エルシーネの後をシャスターとカリンがついて行く。
「帝都エースヒルは国際都市だからね。色々な国の人たちがいるし、様々な種族の人たちもいるの」
「ということは、ドワーフの他にも種族がいるのですか?」
カリンは目を輝かせた。
「もちろんよ。その中でも、そうね……、ドワーフのように比較的人数の多い種族はエルフかな」
「エルフ!」
カリンが声に出して反応する。
「おっ! カリンちゃんはエルフは知っているのね?」
「はい。子供の頃に一度見た……いいえ、声を聞いたことがあります」
しかし、ドワーフの時とは違い、心なしかカリンの声は暗く少し沈んでいる感じだ。
そんなカリンの心境は当然と言えば当然であった。
カリンの住んでいたレーシング王国、フェルドの町は深淵の森という広大な森と隣接していた。
深淵の森は入ったら最後、二度と森から抜け出せない魔の森であり、多くの者が行方不明になっていた。
そのため人々の間では、深淵の森にはエルフという凶暴な魔物が住んでいて、エルフが仕掛けた魔法が森に入った者を逃がさないからだ、と伝えられていた。
カリンも小さい頃から深淵の森には絶対に近づくなと、口うるさく言われていた。
また子供の頃、深淵の森の近くで森の中から笑い声を聞いたことがあって、慌てて逃げ出した経験もあった。
そんな恐ろしいエルフが帝都エースヒルにはいるというのか。
「カリンちゃん。エルフは魔物じゃないし、人を襲ったりはしないわよ。まぁ、中には悪戯好きの者たちもいるでしょうけど」
カリンの勘違いをエルシーネが微笑みながら訂正する。
「でも、深淵の森に入ったら二度と出て来られないのは……」
「深淵の森は『魔力特異地域』なの。だから、普通の人間が迷い込んだら出て来るのは難しいというだけよ」
エルシーネがカリンを安心させようと説明を始めた。
「魔力特異地域」というのは、自然の魔力が密集している場所であり、様々な気候や環境変化を引き起こす特異な地域とのことだ。
アスト大陸には大小幾つもの魔力特異地域が点在していて、深淵の森もその一つだった。
深淵の森の場合、森の中の地形や風景が刻々と不規則に変わっていくという「魔力特異地域」であった為、森の中に入った者は迷い込んでしまうのだ。
「深淵の森がそんな場所だったとは!」
まさか、深淵の森から出て来られない理由が「魔力特異地域」という自然の魔力のせいだったとは。
カリンは初めて聞いた真実に驚く。
「なるほど、深淵の森は『魔力特異地域』だったのか。それで、俺も迷ったわけだ」
妙に納得したのはシャスターだった。実際に深淵の森で彷徨った経験があったからだ。
「えっ! シャスターくん、そんなことも知らずに深淵の森に入ったの!?」
「ただの広大な森だと思ってさ。それで迷った挙句、やっと抜け出したらレーシング王国だった」
そこからシャスターとカリンの出会いが始まったのだ。
そう考えると、カリンとしては感慨深いものがあるのだが……。
「呆れた。まぁ、シャスターくんなら深淵の森ぐらい、何の問題もなく出られるでしょうけど」
ため息を吐きながら、エルシーネはカリンに話し続ける。
「実際に、深淵の森にはエルフは住んでいるから、カリンちゃんの聞いた声は本当にエルフだったかもしれない。でも、エルフのせいで森から二度と出て来られないということはないわ」
エルシーネの話はカリンの想像していたエルフとは全くかけ離れていた。それでもエルシーネが話したエルフの方が真実だと容易に想像がつく。
「魔力特異地域」など知らないフェルドの住民たちが、勝手に森に住んでいるエルフと結び付けて迷信を生み出したのだろう。
「ほら、あそこにエルフがいるわ」
カリンはエルシーネが見ている方向を見つめる。
ひとりの女性が店から出てくるところだった。その後ろ姿は人間と変わりないように見える。
しかし、女性が振り向いた瞬間、カリンは目を見張った。
「美しい……」
思わずカリンの口から声が漏れた。
遠目から見ても、その女性の肌は陶器のような白く、腰まで伸びた長い髪は金色に輝いている。まるで女神の化身かと思うほどの美しさだった。
「彼女だけが美しいわけじゃないわよ。エルフはみんなあんな感じよ」
カリンの想像していたエルフとは百八十度違っていた。人を襲う禍々しい魔物ではなく、神々しいほど美しい種族だったのだ。
「エルフさん、ごめんなさい」
勝手に頭を軽く下げて謝ったカリンは、エルシーネたちと再び街を歩き出した。
皆さま、いつも「五芒星の後継者」を読んで頂き、ありがとうございます!
今回、「魔力特異地域」という言葉が出て来ました。
エルシーネの話で出てきたとおり、魔力が集まった特殊な地域です。
やっと、第一章第一話でシャスターが迷って抜け出してきた「深淵の森」の解説ができました笑
大陸には様々な地域があるのですが、これからも幾つかの「魔力特異地域」が出てくるかと思います。
それでは、これからも「五芒星の後継者」を宜しくお願いします!




