第十六話 賑わう帝都 &(帝都エースヒルMAP)
エルシーネに連れられて、皇宮を出て皇区へ、そして特区を抜けて市民区にたどり着いたカリンは目を見張った。
門から見える市民区には大勢の人々が歩いていて、とても賑わっていたからだ。
昨日帝都に来た時は凱旋だったため、人々が沿道を埋め尽くしてくれたが、今日は何も特別なことはない普通の日だ。それなのにこの人の多さは何であろう。
「これが帝都エースヒルの日常の市民区よ」
フードを深く被ったエルシーネがカリンの驚きに答える。彼女は皇女であるため、正体がばれないようにフードで隠していたのだ。
帝都エースヒルは一周約五十キロメートルもある円形状の超巨大都市だ。中心に向かって、市民区、特区、皇区、そして中心部の皇宮に区分けされているが、その中で一番面積が広く、また帝都百五十万人のほとんどが暮らしているのが、市民区であった。
そんな市民区には、エルシーネたちが現在いる場所のような、賑わいを見せている市街地が何十もあるのだ。
「相変わらずの賑わいだね」
シャスターはいつも通りの旅人の格好をしていた。凱旋の時、リクスト将軍の計らいでシャスターは一般騎士としてその他大勢の騎士たちと共に馬を進めていた。そのため街の人々に正体が知られていないのだ。
カリンも凱旋の時はシャスターの横で馬を進めていたが、周りを騎士たちに挟まれていたので、カリンの姿は沿道からは見えなかったはずだ。
こうして、シャスター、カリン、エルシーネの三人は門を越えて堂々と市民区に出たが、すれ違う人々は誰一人として三人を気にする者はいない。ちなみに星華はシャスターの影の中に潜んでいる。
「大聖堂はここから近いからのんびり行きましょう」
エルシーネが提案した。その時だった。
「あれは、何ですか?」
カリンが不思議そうに指を差して尋ねる。
その先には、大きな四角い箱型の物体があった。箱には幾つもの窓が付いていて、中に何人もの人の姿が見える。
カリンが興味津々に見ていると、その箱型の物体はゆっくりと動き出した。
「あれは魔法輸送車という乗り物よ。ああやって決まったルートで人を乗せたり降ろしてくれるの。帝都では一般的な乗り物よ」
カリンが市街を見渡すと、同じような箱型の乗り物がいくつも走っている。
帝都エースヒルでは、遠くまでの移動にはこの乗り物が使われており、何百台もの魔法輸送車が帝都を走っているということだった。
「すごいです! 自動で動いて止まるマジックアイテムなんて!」
路面には進む進路に沿って長い線が刻まれていて、魔法輸送車はその上を少しだけ浮遊して走っている。そして、停車場に着くと一旦止まり人が乗り降りしていく。
「正直に言うと、あのマジックアイテム自体は大したことないの。重い物を浮かばせて前に動かすだけの単純な仕組みだから。本当に凄いのはそのマジックアイテムを生かす技術力かな」
「技術力?」
「うん。マジックアイテムを魔法輸送車と呼ばれる箱型に組み込んで、さらに路面の線に沿って一定の速度で動くようにする。そして、停車場では人を感知して、乗り降りがある場合には止まる。この技術力があってこその魔法輸送車なの」
なるほど、マジックアイテムはあくまでも動力源であり、それを適切に動かす技術の方こそが重要なのだ。カリンにもよく分かる。
「帝都にはその技術力に長けている種族が多いからね」
シャスターが横から口を挟む。しかし、カリンには何のことだか分からない。
「種族って?」
「人間以外のさ」
「……人間じゃないの?」
「そうだよ、ほら」
シャスターの視線の先を見たカリンは驚いた。
成人男性の背丈の半分程度しかない、樽のような体型の髭づらの人間が二人で話し合っていたのだ。
「えっ、あの人たちは……!?」
「ドワーフよ」
「ドワーフ?」
ドワーフ……初めて聞く名前にカリンはキョトンとしている。
そんなカリンの姿を見て、シャスターとエルシーネは合点がいく。
「そうか、カリンちゃんは人間以外の種族を見るのは初めてか!」
カリンが暮らしていたレーシング王国を含むゲンマーク山脈南部の周辺国一帯には人間以外の種族は暮らしていない。そのため、カリンは人間以外の種族についての知識がほとんどなかったのだ。
エースライン帝国に入国してからも、シャイドラを出発してから帝都に着くまでの二週間近くの間、最初の大都市ベックス以外は街を出歩くことがなかった。毎日深夜に都市や町に着き、そのまま翌日早朝に出発していたので、街の中を見て回る暇がなかったのだ。
「ベックスではたまたま見かけなかったけど、エースライン帝国には人間だけでなく、多くの種族が暮らしているの」
「なるほど! でも、私も今までに人間以外の種族に何度も会いました」
「ん?」
「スケルトンやゾンビ、ゴースト、それにゴブリンも……」
真面目に答えたカリンだったが、シャスターに笑われる。
「確かにゴブリンも種族は種族だけど、奴らは魔物の種族に分類されるからね」
「ここで言う種族は、人間に好意的な種族ということなの。その代表的な種族がドワーフね」
ドワーフは元々は地の精霊の一種だったらしい。それが膨大な年月の間に肉体を得てドワーフとなったとされている。地の精霊だった頃の名残で鉱物に扱いに長けており、手先の器用さと相まって、武器や防具そして建築物の制作にその能力を最大限に発揮していた。
「武器屋で売られている高級な武器や防具の多くはドワーフたちが造った物よ。それに、あの魔法輸送車が動くのもドワーフの技術力なの」
「そうなのですか!」
「うん。汽車には何種類もの魔法鉱石を使って、多くの人が乗っても浮かせられるように軽量化されていたり、走っている最中に万が一誰かにぶつかっても怪我が最小限になるよう、表面に強弾力を持たせたりと色々な工夫がされているの」
「ドワーフって凄い人たちなのですね!」
人間に好意的な種族がいることだけでも驚きだが、さらに人間と共存しているとは、カリンには信じられないことだった。
♦♢♦♢♦ 帝都エースヒル MAP ♦♢♦♢♦
皆さま、いつも「後継者の後継者」を読んで頂き、ありがとうございます!
今回は帝都エースヒルの観光?のお話でしたので、以前掲載した帝都MAPを今回も添付しました。
MAPがある方が少しは分かりやすいかなと思っていますが、エクセルで作った素人MAPなので、毎回下手ですいません。
それでは、これからも「五芒星の後継者」を宜しくお願いします!




