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第十四話 調査パーティー

「そんな友好的な吸血鬼(ヴァンパイア)が魔物を(ロード)化するはずがないじゃない?」


 誰もが気付いていた矛盾点をエルシーネが大声で指摘する。

 ダーヴィス将軍の話が事実だとすると、冥々の大地南西部を支配する吸血鬼(ヴァンパイア)が、魔物の王を使ってエースライン帝国を襲わせるとは考え難いのだ。


「エルシーネが言うこともよく分かる。しかし、状況的判断すると冥々の大地南西部の吸血鬼(ヴァンパイア)が犯人としか考えられない。そこで真相を確かめるためにも、冥々の大地を調査したいのだが……」


 エーレヴィンは軽く腕を組む。


「知っての通り、冥々の大地は近隣諸国が干渉出来ない非武装地帯だ。軍隊を派遣することは出来ぬ。そこで少数精鋭のパーティーを組んで調査しようと思う。ただし、第四、第五の魔物の王が現れる可能性もあるので、各将軍は現状の防衛拠点を守らねばならない」


「ということなら、私の出番ね」


 エルシーネが元気よく手を挙げる。


「ああ、自由に動けるのは遊撃隊のお前だけだ。そして……」


 エーレヴィンがシャスターに姿勢を向けた。


「我が国のことで大変恐縮なのだが、シャスターにも参加して貰いたいのだ」


「別に将軍たちじゃなくても、帝国には近衛兵団とか魔法師団、特殊部隊とか他にも色々とあるでしょ? わざわざ部外者の俺が行かなくても……」


 シャスターとしては無駄な働きはしたくない。すでに昨夜、帝都を守ったし、充分な仕事をしたはずだ。

 あからさまに嫌そうな表情をしたシャスターだったが……。



「シャスター以外に、妹の暴走を止められる者はいないのだ。それに報酬も充分に払わせてもらう」


「なるほど、そういうことであれば了解した」


 シャスターが大きく頷いた。

 シャスターはエーレヴィンの発言の前半部分ではなく、後半部分に大きく反応したのだが、会議中の大勢がいる前だ。少しは羞恥心が残っていた少年は、前半部分で納得したフリをした。


 しかし、到底納得していない者もいる。


「ちょっと! 私が暴走ってどういうこと?」


 エルシーネが思いっきり机を叩き、兄に猛抗議を始める。

しばらくの間、その光景を面白そうに眺めていたシャスターだったが、いつの間にかその矛先がシャスターにも向けられた。


「それに、シャスターくんもシャスターくんよ! 何でそこで納得するの! 今まで私が暴走なんてしたことがあった?」


 「はい、ありました」とは答えることが出来ずに、シャスターは黙りを決めた。

 それを見て、エルシーネはさらに問い詰めようとしたが、その直前エーレヴィンが絶妙なタイミングで口を開く。


「つまり、エルシーネはシャスターとパーティーを組むのは不服ということか? それであれば、シャスターが言うように他の者に変えるが」


 痛いところを突いてきた。

 シャスターほど頼もしい味方はいない。エルシーネとしては言葉に詰まる。


「……そんなことはありません。シャスターくんでお願いします」


「そうか」


 エーレヴィンが意地悪そうに笑う。

 一気に立場が逆転してしまった形だ。頭の切れる意地悪な兄を再認識したエルシーネが大きくため息をつく。



「さて、改めてイオ魔法学院の後継者であるシャスター・イオにお願いする。冥々の大地に行って吸血鬼(ヴァンパイア)たちを調査して貰いたい」


「まぁ、俺も魔物の(ロード)化は気になるし、知死者(モルス)に「縛り」を教えた奴も知りたい。面白そうだから行ってみる」


「ありがたい。感謝する」


 シャスターの本当の興味が報酬であると知りつつも、エーレヴィンは頭を下げて感謝の意を示した。



「冥々の大地への調査隊パーティーのリーダーはシャスターだ。それと、ダーヴィス将軍」


「はっ!」


「将軍もシャスターに同行するように。冥々の大地の道案内が必要だ」


「かしこまりました」


「それでは、シャスターたち一行は冥々の大地へ明日、出発とする。北東部の拠点クーゼンに到着後はダーヴィス将軍と共に吸血鬼(ヴァンパイア)の調査を行って貰うが、現地での行動はシャスターに一任する」


 つまり、吸血鬼(ヴァンパイア)と平和的に話し合おうが、徹底的に戦おうが自由だということだ。

 この取決めは既にシャード皇帝とエーレヴィンの間で決まっていたのだろう。会議が始まってから臣下たちの自由で活発なやり取りを最後まで口を挟むことなく黙って聞いていたシャード皇帝が立ち上がった。



「シャスター殿。今回の件で貴殿を縛るつもりはないし、旅の修行の一環として考えてもらえればありがたい。全責任は私が負うゆえ、好きなように行動するが良い」


「承知しました。まぁ、なるべく帝国には迷惑が掛からないように対処しますよ」


「ふむ。よろしく頼む」


 シャード皇帝が笑った。

 全責任を皇帝が負うなんて言われれば、誰も反対なんて出来るはずもない。それどころか、帝国おける最重要案件になり、帝国内全てがシャスターに対して最大限の力を尽くすことになる。



「それでは、ザン将軍、アルレート将軍、ヒューズ将軍、エルーミ将軍の四将軍も明日中に各防衛拠点に戻るように。他の将軍たちはそのまま現地域の安全を維持。大臣たちは情報収集と各方面への連絡、そしてシャスターに対して最大限の尽力を行うように。以上だ、解散!」


「はっ!」


 エーレヴィンの号令で全員が立ち上がると、皇帝に対して頭を下げた。


 久しぶりに帝国の重鎮たちが集った会議はこうして幕を閉じた。



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