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第十話 真の敵  &(登場人物紹介)

「冥々の大地ですか? ……厄介な場所ですね」


 エルシーネの発言に続いて、アルレート将軍がため息をつく。

 誰もがその場所が厄介だという理由を分かっていた。唯一、分からないのはカリンだけだ。



「冥々の大地というのはエースライン帝国の北東の国境先に広がる広大な場所で、そうだな……カリンが住んでいたレーシング王国と比べれば十倍くらいは広いんじゃないかな」


「そんなにも!」


 シャスターの説明を聞いて、カリンは驚くのと同時に、アルレート将軍のため息の理由が分かった。

 レーシング王国の領土の十倍、そんな広大過ぎる場所で魔物を(ロード)化した犯人を探すのは無謀だからだ。



 地図はさらに拡大しながら、冥々の大地の南西部付近で止まった。


「ただ幸いなことに、幻眠花は冥々の大地の南西部にしか生息していないようだ」


「これでだいぶ狭まりましたが、それでもまだ……」


「その通りだ、アルレート将軍。それでもまだ範囲が広過ぎる」


 南西部だけでもレーシング王国以上の広さはある。探す範囲としてはまだまだ広過ぎるが、エーレヴィンは話を続けた。


「ただし、これで敵の正体はかなり絞ることができた。そうだな、ダーヴィス将軍?」


 突然指名されたダーヴィス将軍はこの場にはいなかった。

 魔法投影マジック・プロジェクションで会議席に座ってはいるように見えるが、実際の彼はエースライン帝国の北東部を防衛拠点とするクーゼン城にいる。

 北東部一帯を守護する十輝将、それがダーヴィス将軍であった。



「そのようですね」


 突然の指名にも慌てることなく、ダーヴィス将軍は一礼しながらエーレヴィンに視線を向けた。


「私の守る北東部は冥々の大地と国境を接していますので、多少の情報は持っています」


 控えめに答えたダーヴィス将軍を見て「多少ではないだろう」と、他の十輝将の誰もが内心で苦笑する。



 灰色の髪を短髪に切り上げ、細身の身体の割には筋骨逞しいダーヴィス将軍は、会議中にも関わらず背中に巨大な戦斧を携えている。そのため一見すると、戦うことが主体の好戦的な将軍と思われそうだが、彼ほど情報戦に長けた将軍は他にはいない。


 そんなダーヴィス将軍なら常日頃から国境を接している冥々の大地を詳細に調べてあるに違いなかった。

 だからこそ、エーレヴィンも彼に質問をしたのだ。


「冥々の大地について、皆に話してもらえるか?」


「はい」


 ダーヴィス将軍はエーレヴィンに代わって天井に映る地図を動かし始めた。



 冥々の大地と呼ばれるアスト大陸西部中央に位置するこの広大な大地は、山々がそびえ何本もの大河が流れ、広い森や平地がいくつも点在する場所だ。また、無数の動植物が生息している野生の宝庫でもある。

 そして、広大な面積を持つだけあって、エースライン帝国を含めた幾つもの国々と国境を接していた。


 しかし、どの国々も冥々の大地を支配しようとは思っていない。

 なぜなら、ここには多種多様の種族が暮らしているからだ。魔物だけでなく亜人まで暮らしているとなれば、下手に手を出すことが出来ない。

 そのため国境を接している国々は、冥々の大地に軍隊を進軍させない取り決めを行い、不干渉協定を結んでいた。



「……と、ここまでは誰もが知っている情報だと思います」


 ダーヴィス将軍と一瞬だけ視線が合ったカリンは、将軍が自分ために冥々の大地の説明をしてくれたことを悟った。

 優しい親切な将軍だと知ってカリンは嬉しくなる。



「しかし、冥々の大地の南西部にだけに絞ると、暮らしている種族の数も限られてきます」


 ダーヴィス将軍はそのまま話を進める。


「さらに薬花を処方できるほどの高度な知識を持つ種族となれば、一種族しか存在しません」


 ダーヴィス将軍は断言した。

 つまり、その一種族がエーレヴィンの話していた敵ということなのだろうか。


「その種族は……」

 

 全員の視線が立体映像の将軍に向けられる。

 そんな中、至って冷静なダーヴィス将軍は静かに口を開いた。


「冥々の大地の支配者、吸血鬼(ヴァンパイア)です」



第五章「冥々の大地」編

これまでの主要な登場人物


シャスター

伝説の魔法学院、火炎系魔法の最高峰であるイオ魔法学院の後継者であり、「五芒星の後継者」のひとり。

レーシング王国で魂眠(こんみん)に陥ってしまったフローレを治す方法を探しに、ゴブリン退治で合流したエルシーネたちと共にエースライン帝国の帝都エースヒルに来た。

国賓として招かれたパーティーが開催された夜、帝都が突然現れた知死者(モルス)たちに襲撃されそうになった為、エーレヴィンから多額の報酬を貰い、魔物たちを討伐した。



カリン

神聖魔法の使い手(ホーリーユーザー)

魂眠(こんみん)に陥ったフローレを治す方法を探す為、シャスターと共に旅に出た。

神官レベルが一気に三十五に上がり、さらにファルス十二神全ての神々との契約者となってしまった為、シャード皇帝からはファルス神教の祝福者(ファルス・ブレッサー)と呼ばれることになった。

十二神全てと契約した者は広大なアスト大陸でも、カリンたった一人しかおらず、さらにファルス神教で異端神扱いの冥界神デーメルンとも契約ができてしまった為、今後のカリンの神官としての潜在能力は未知数。



星華

シャスターの守護者(ガーディアン)

稀有な職業「忍者」、その中でも上忍しか名乗ることが許されない「くノ一」の称号を持つ。

自分の素性を守るためなら、エースライン帝国皇帝の前でさえも記憶を消す薬を撒くほど、怯むことなき性格であり、大胆さと冷静さを持つ。

帝都に現れた三体の亡魔の騎士(フィーンドナイト)の一体を易々と倒した。



エルシーネ

七大雄国(セフティマ・グラン)の一角、エースライン帝国の第二皇女であり、帝国の有するペガサス騎士団の騎士団長、そしてエースライン帝国が誇る十輝将(じゅうきしょう)のひとり。

シャスターとは以前からの知り合い。兄のエーレヴィンのことが大の苦手で大嫌い。



ザン将軍

エースライン帝国、南東部の国境都市シャイドラの統治者であり、帝国の南東一帯を守護している。

帝国が誇る十輝将(じゅうきしょう)のひとり。

ゴブリン軍を殲滅させた後、シャスターたちと共に帝都に赴いた。



アルレート将軍

エースライン帝国が誇る十輝将(じゅうきしょう)のひとりで、帝国の東部を守護している。

ゴブリン・ロードを圧倒的な力の差で倒した後、帝都に凱旋。そのパーティーの最中、シャスターと無断で試合をしていたが、リクスト将軍に見つかってしまい、その罰として帝都に現れた亡魔の騎士(フィーンドナイト)一体の討伐を命じられて倒した。



リクスト将軍

弱冠十四歳にして十輝将(じゅうきしょう)となり、百五十万人を抱える帝都エースヒル防衛の最高責任者。現在、十五歳。

将軍になる前はアルレート将軍下で副将を務めていた。

パーティーの最中、帝都に現れた亡魔の騎士(フィーンドナイト)一体を倒した。



エーレヴィン

エースライン帝国宰相。

また、シャード皇帝の皇子であり、エルシーネの兄。

戦略の天才であり、今回のゴブリン・ロードのフェルノン山脈北からの帝国侵攻も読んでいた。そのため、エルシーネたちを陽動に使ったのだが、それがエルシーネを憤慨させている。

パーティーの最中に起きたシャスターと知死者(モルス)の戦いを見届け、帝国会議にて報告。今後の方針を決めようとしている。



シャード皇帝

百数十の国々がある広大なアスト大陸において、七大雄国(セフティマ・グラン)の一角であるエースライン帝国の皇帝であり、エーレヴィン、エルシーネの父である。

今回の事件が解決した後、シャスターの旅にエルシーネを同行するようシャスターに願い出た。



クラム大神官

年齢不詳の穏やかな美しい女性。

エースライン帝国でのファルス神教の最高位の神官であり、周辺国でも大きな影響力を持っている。

ファルス十二神のうち、冥界デーメルン神を除く十一神と契約をしており、神官としての能力・実力ともに帝国トップ。

カリンに会いにパーティー会場に訪れ、悩んでいるカリンに優しくアドバイスをした。



エルーミ将軍

十輝将(じゅうきしょう)のひとり。

容姿や振る舞いは華麗な貴婦人にしか見えないが、槍の使い手として帝国内に彼女の右に出る者はいない。

帝国西部の国境に広がるベルナ湿地帯の一帯を守護している。ロード化した三匹の魔物の一匹、コボルト・ロードを倒した。



ヒューズ将軍

十輝将(じゅうきしょう)のひとり。

見た目は大人しそうな青年だが、得意とする細長い長刀はその長身と相まって凄まじい威力を繰り出す。

帝国の南部を東西に走るゲンマーク山脈一帯を守護している。ロード化した三匹の魔物の一匹、オーク・ロードを倒した。



ダーヴィス将軍

十輝将(じゅうきしょう)のひとり。

常に巨大な戦斧を背中に掛けている偉丈夫であるが、見た目に反して知略型の将軍でもあり、情報戦に長けている。

帝国の東北部を守護しており、隣接している冥々の大地にも精通している。



謎の少女

正体は不明。

猛吹雪の中、異形の巨大狼に乗って、山々を駆けている。

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