第六話 帝国会議
カリンはかなり緊張をしていた。
朝食後のお茶を星華と一緒に楽しんでいたところに、突然現れたシャスターに「行くよ」と強制的に連れて来られたのが、今いる場所だったからだ。
「し、失礼、します」
カリンが緊張するのは当然だった。
なぜなら、その場所には皇帝をはじめ多くのエースライン帝国の重鎮らしき者たちが揃っていたからだ。
巨大な円卓には皇帝を中心に、左右にはエーレヴィンとエルシーネが座っている。さらにエルシーネ側には時計回りに、ザン将軍、アルレート将軍、ヒューズ将軍、エルーミ将軍、そしてリクスト将軍が座っている。
さらにリクスト将軍の隣からは見たことがない四人が座っているが、おそらく十輝将の他の四人の将軍たちだろう。
それはいい、それはいいのだが。
(身体が透けている!)
その四将軍たちの身体がまるでゴーストのように透けていたのだ。カリンは死者の森で出会ったガイムを思い出す。
「まさか、ゴーストの将軍!?」
思わず小さな声が上がってしまい、意味を悟ったシャスターに笑われる。
「違うよ。あれは魔法の投影といって、遠くにいる人の姿をこの場に映し出しているんだ。会話もできる」
確かにガイムとは違って身体の色彩が鮮明だ。
凄いマジックアイテムだとカリンは驚嘆した。四人の将軍たちは本当にこの場にいるかのように円卓に座り、こちらを見ている。
「……本物みたい」
実際は、四人の将軍たちは遠く離れたそれぞれの任地から会議に参加しているのだ。
驚いたせいか、少しだけ緊張から解放されたカリンは、将軍たちの反対側の円卓を見た。エーレヴィン側の席だ。そこには反時計回りに将軍たちと同じく十人ほどが座っていた。
「あっちは大臣や各界の重鎮たち」
シャスターの説明を受けてカリンは頷く。
知らない人たちばかりだが、一人だけ知っている人物がいた。ファルス神教のクラム大神官長だ。カリンを見て微笑んでくれている。
エーレヴィン側にも魔法投影の者たちが何人かいた。
会議室に来たのはシャスターたちが最後だったらしい。これで全員が揃った。
「良く来てくれた。イオ魔法学院の後継者、シャスター・イオ殿」
すると、シャード皇帝以外の全員が一斉に立ち上がり、シャスターに向かって頭を下げる。
その光景をカリンは横でポカーンと眺めていた。
アスト大陸に君臨する七大雄国の一角であるエースライン帝国、そのトップに位置する最高位者たちが、シャスターを前に頭を下げているのだ。
やはり、この少年はとてつもなく凄い人物なのだ。
いつものシャスターを知っているカリンにとっては、そのギャップがあまりにも大き過ぎる。
「どうも」
緊張感なくシャスターが軽く頭を下げて席に座ると、全員もそれに倣ったように座る。シャスターたちが座っている場所は皇帝のちょうど真正面だ。シャスターの左右にはカリンと星華が座っている。
「少し遅れてすまなかった。カリンが行きたくないと駄々をこねてさ。ほんと申し訳ない」
「なっ!? ち、ちょっとシャスター!」
横で激しく抗議するカリンを見て笑っている人物がいる。
「カリン嬢、気にすることはない。エルシーネはいつも会議を嫌がって時々仮病を使うからな」
「兄上!」
今度は顔を真っ赤にしたエルシーネが大声で叫びながら抗議する。それを見て、ここにいる参加者たちの顔が幾分か和らいだ。
「それでは帝国会議を行う」
エーレヴィンの号令と共に会議上の全員が再び立ち上がると、今度は皆がシャード皇帝へ敬礼する。
カリンも慌てて立ち上がって敬礼をするが、隣の少年は座ったまま眠たそうだ。
全員が着席したところで、シャード皇帝が会議開催について話し始めた。
「重大な案件が起きたため急遽ではあるが、臨時の会議を行うこととした。皆で忌憚ない意見を出して欲しい。それではエーレヴィン宰相、説明を」
「はっ!」
シャード皇帝に対し頭を下げたエーレヴィンが一同を見渡す。
「さて、早速だが会議の本題だ。昨日も話したが、帝国内に三匹の魔物の王が現れた。各将軍たちによって討ち滅ぼされ事なきを得たが、三匹同時とは何者かによって意図的に行われたと見るべきだ。今回はそのことについて、今後の対応について決めていきたい……と話す予定だったが、それよりも先に皆に伝えるべき緊急案件ができた」
エーレヴィンは一呼吸置いて全員を見渡す。
「昨夜、帝都エースヒルが攻撃を受けそうになった」
「えっ!?」
思わず声を上げてしまったのはカリンだった。
しかし、それを誰も咎めることはしない。カリンの反応は至極当然のことだったからだ。カリンと同じように、魔法投影で映し出されている者たちからは驚きの表情が見える。
逆に、この会議の場に実際に参加している者たちはそこまで驚いていない。各々の情報網から一夜のうちに、帝都襲撃の情報を得ていたからだ。
カリンは慌てて両手で口を押さえるが、驚きの表情は変わらない。昨夜はここにいる多くの人たちがパーティーに参加していたはずだ。それなのに、帝都が襲われそうになったとはどういうことだろう。
「詳細については、帝都防衛の総責任者であるリクスト将軍から説明をしてもらう」
「はい」
最年少の将軍はその場で立ち上がると、天井に大きなスクリーンが現れた。
その画面には昨夜の出来事の映像が映し出され、それに合わせるようにリクスト将軍の説明が始まった。




