表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

333/811

第一話 二人で朝食を

 カリンは眩しい陽の光で目が覚めた。


 寝ぼけながら上半身だけ起きて室内を見回すと、豪華な部屋の大きなベッドに寝ている場違いな自分に一瞬驚く。


(……あっ、そうだ! 私、エースライン帝国の帝都にいるんだわ)


 寝ぼけが一気に吹き飛び、現実に戻されたカリンは改めて周りを見渡す。すると、昨日のことが走馬灯のように思い出されてくる。



 超巨大都市、帝都エースヒルに到着したこと。

 エースライン帝国の皇帝陛下に拝謁したこと。

 夜に盛大なパーティーに参加したこと。

 そこで宰相のエーレヴィン皇子やクラム大神官長と話したこと。


 信じられないようなことが立て続けに起きた一日だった。

 カリンは軽く頬をつねってみたが、やはり夢ではなかった。現実なのだ。



「ほんと、シャスターと一緒にいると凄いことばかり起きるわ」


 カリンはあえて声に出してみた。

 自分自身を認識するための独り言だったのだが、意外なことに天井から声がした。


「そのようですね」


「!?」


 驚いたカリンだったが、すぐにその正体は分かった。



「星華さん、おはようございます!」


 誰もいない天井に挨拶をすると、カリンは顔を洗うためにベッドから降り、洗面室に移動した。

 蛇口から勢いよく流れる水を手ですくい顔につけると、冷たくて気持ちいい。



 顔を洗い終わってリビングに来ると、すでに星華が椅子に座っていた。


「そういえば、星華さんは昨日、緊張しませんでしたか?」


 何気なくカリンは星華に聞いてみたが、すぐに質問が無意味だと悟って後悔した。

 なぜなら、もし星華が緊張していたのなら、皇帝に謁見中の大勢の前で記憶を曖昧にする薬をばら撒いたり、帝都に侵入できることを堂々と話したりするはずがないからだ。


 そのカリンの予想は的中したようで、あまり表情のない星華が少しだけ考え込む素振りをしている。カリンの質問を意味が分かっていないからだ。


「ご、ごめんなさい。星華さんは緊張なんてしないですよね」


 慌ててカリンは両手を横に振りながら否定した。

 しかし、星華は全く気にしている様子もなく、カリンに用件を伝える。


「そろそろ朝食の準備が整うようです」


 そう言われてカリンは時計を見た。

 時計の針は七時過ぎを指している。



「寝過ごした!」


 急いで再び洗面室に戻ったカリンは鏡の前に座って髪をとかし始めた。


 昨夜パーティーが終わった後、カリンはエルシーネに連れられて皇区のさらに中心部にある皇宮に来た。

 皇族であるエルシーネは自宅が皇宮だ。寝るために皇宮に戻るのは当たり前なのだが、カリンにも皇宮に泊まるための部屋を用意してくれていたのだ。

 しかし、十騎将でさえ住まいが皇区なのに、皇宮に泊まるなんて畏れ多過ぎる。カリンは何度も断ったのだが、泥酔していたエルシーネに抗うことも出来ず、カリン自身もかなり酔っていた為、結局皇宮内に用意された部屋に泊まったのだった。



 皇宮には皇帝をはじめ、エースライン帝国の皇族が住んでいる。

 皆と一緒に朝食を食べるのであれば、寝起きのみっともない格好ではいられないからだ。


「急いで着替えないと!」


しかし、無常にも部屋の扉がノックされた。


「あ! は、はい! どうぞ」


「失礼します」


 部屋に二人の侍女が入ってきた。二人ともワゴンを押していて、そこには多くの料理が載せられていた。


「おはようございます。朝食をお持ち致しました」


 頭を下げた侍女たちは手際良くテーブルに朝食の皿を並べていく。それを見ながらカリンは侍女に声をかける。


「あの……朝食はここで食べるのですか?」


「はい。お二人はこの部屋で食べて頂くよう、エルシーネ皇女殿下から仰せつかっております」


「良かったー!」


 思わず声が出てしまったカリンを見て、侍女たちは怪訝そうな表情になるが、カリンは気にすることなく喜んだ。


「エルシーネ皇女殿下には、宜しくお伝えください」


「承知致しました」


 会話のやりとりの間に朝食の皿は全て揃っていた。



「それではごゆっくりとお過ごし下さい。失礼致しました」


「ありがとうございます!」


 カリンは部屋から出て行く侍女たちを見送った後、朝食の並んでいるテーブルの前に座った。


「あー、良かった! もしかして皇族の方々と一緒に朝食を食べるのかとドキドキしていました」


「朝食は皇族の方々だけで召し上がります」


 星華の説明を聞いて、カリンはもう一度安堵した。

 食事中は皇族のみで親しい会話をしているのだろう。そんな場に居合わせたら、緊張して食事が喉を通らない。本当に良かった。

 そして、安堵したせいか、もう一人の人物を思い出した。


「そうだ! シャスターもここに泊まっていますよね?」


 自分が皇宮に泊まったということは、当然シャスターも皇宮に泊まっているはずだ。

 パーティーの後半からシャスターの姿を見掛けなかったが、早めに部屋で休んだのだろうか。



「今頃、シャスターも部屋で朝食を食べているのかな」


 ひとりで食べているのなら一緒に食べようと提案したカリンだったが、星華が頭を横に小さく振った。


「シャスター様は皇族方とご一緒に朝食をとられています」


「え、でも、今の話じゃ……」


「シャード皇帝がそう望まれたとのことです。私も警護不要とのことでしたので」


「それで私の部屋にいたのですね」


 そういうこともあるのか、とカリンは思った。

 皇族だけの朝食に呼ばれるということは、シャスターはエースライン帝国にとってそれだけ特別な存在なのだ。

 さらに星華を外すということは、きっと重要な話をしているに違いない。


 でも、今のカリンにとっては関係のない話だ。



「それじゃ、星華さん。温かいうちに食べましょ!」


「はい」


 二人はゆったりとした時間の中、朝食を食べ始めた。




皆さま、いつも「五芒星の後継者」を読んで頂き、ありがとうございます!


さて、第五章「冥々の大地」編が始まりました。


舞台は、第四章から引き続き、エースライン帝国の帝都エースヒルから始まりました。

知死者(モルス)を倒したものの、まだ未解決な部分が残っています。

それが第五章で明かされていく予定です。


新たな登場人物も多く出てきますので、楽しみにして貰えたら嬉しいです。


それでは、これからも「五芒星の後継者」をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ