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第百二十三話 外伝 モルス4

 男が落とし穴に落ちた翌日、ヘルダンス王国の王宮に一つの急報が届いた。

「村が一つ、全滅している」と。


 その村は半年前、国王が訪問した時に村人たちが魔女の討伐を願い出たところだった。


 国王が詳しく事情を聞くと、村人全員が黒焦げになって焼死し、建物もほとんどが燃えてしまっているとのことだった。



「まさか、あの男が魔女の復讐をしたのか?」


「おそらくは……」


 国王は思いっきり床を蹴った。


「男の生死を確かめろ!」


 国王の命令により、慌ただしく床が開き、落とし穴が開かれた。

 臣下の一人が覗き込むと、そこには魔女と男が重なり合って倒れていた。


「もう死んでいます」


「ちっ!」


 国王は舌打ちをした。

 もし生きていれば、穴から連れ出して拷問にかけてやるつもりだったが、死んでしまっているのでは仕方がない。

 しかし、だからといって村を一つ滅ぼされた怒りが収まるわけでもない。


「こいつらを埋葬する必要はない。そのままそこへ捨てておけ!」


 国王は男に向けて唾を吐くと、玉座に座り直した。そしてそのまま床は閉ざされた。

 もう誰も忌々しい魔女と男のことを思い出すことはないはずだった。




それから三ヶ月が過ぎた。


 今日もヘルダンス王国の王宮では、国王と臣下たちが会議をしている。ただし、辺境にある小さな国だ。そこまで毎日、重要な案件があるわけではない。


「今日の公務はこれで終わりだ」


 国王は立ち上がり、自分の部屋に戻ろうとしたが。


「ん?」


 国王がある変化に気付いた。部屋中が急に暑くなってきたからだ。

 しかも、気温はどんどん上昇しているようだ。臣下の前であったが、国王は上着を脱ぎ捨てた。



「この暑さはどうしたというのだ!?」


 国王が叫ぶ。すでに部屋の気温は人の体温を超えていた。

 それでも気温の上昇は収まらず、さらに気温が上がっていく。何人かの者たちは暑さで倒れ始めた。



「一旦、外に避難しましょう」


 臣下の提案で皆外に出ようとした。その時だった。

 突然、床の一部が崩れて炎が吹き出したのだ。


「な、な、なんだ!?」


 床が崩れた場所からは火柱が立っている。この暑さの原因はこの炎だった。

 しかし、なぜ炎が起きたのか理由は分からない。


 いや、一つだけ心当たりはある。

 床が崩れて炎が吹き出している場所、そこは落とし穴の床なのだ。


 しかも、よく見ると火柱の中に人影のようなものが立っている。



「ま、まさか、あの男が……」


 いやそんなはずはない。国王は自らの考えを否定した。

 男を落としたから三ヶ月が過ぎようとしている。あの重傷で生きられるはずがない。現にあの日の翌日、覗いた時には、すでに男は動かずに死んでいたではないか。


 しかし、そんな国王を嘲笑うかのように、火柱から一人の男が現れた。


「わぁあ!」


「ひぃいー」


 その姿を見た瞬間、その場にいた誰もが声を失い、驚きのあまり腰が抜け動けなくなってしまった。

 炎の中から現れた男……いや、男かどうかさえも分からない。


 なぜなら、その姿は骨と皮だけになった骸骨だったからだ。



 骸骨はゆっくりと国王に向かって足を進める。

 しかも、さらに悲惨な状況が起こる。火柱から飛び出した炎の球が臣下たちに降り注ぎ始めたのだ。


「ぎゃー!」


 まさに阿鼻叫喚の光景だった。

 臣下たちが炎で燃えながら、のたうち回っているのだ。

 その間、国王は何もしない、できないのだ。国王も腰を抜かしていたからだ。



「お、お前は……だ、誰だ?」


 それでも威厳を保とうと、骸骨に向けて声を上げる。

 しかし、骸骨は何も反応をしない。ただ何もない空虚な両目の奥が赤く光っているだけだ。


 一歩、もう一歩と国王に近づいていく。


「ひぃー、くるな! くるな、化け物!」


 国王は威厳を捨てた。部屋にいた臣下は全て死に絶え、部屋全体も火事のように燃えている。しかし、骸骨は歩みを止めない。

 そして、国王の前まで来ると、逃げようと必死にもがいている国王の腕を握った。


「ぎゃー!!」


 国王の腕が一瞬で燃えた。

 国王は絶叫するが、骸骨は気にすることもなく、国王のもう片方の腕と両脚も掴んでいく。その度、国王の身体が燃え上がる。国王はすでに意識がない。あまりの激痛に気を失ってしまったのだ。


 最後に骸骨は国王の首を絞めた。すると、首から上の頭が炎で燃える。国王は気絶したまま焼死した。


 ちょうどその時、王宮の兵士たちが部屋に現れた。燃え盛る国王と骸骨を見た途端、あまりにも信じられない光景に兵士たちは息を呑んだ。一目散に逃げ出そうとする者もいたが、逃げる暇はなかった。炎の球が次々と兵士たちを襲い始めたからだ。


 あっという間に王宮の兵士たちは全滅した。



 骸骨の空虚な目に再び赤い光が灯った。骸骨にはまだやるべきことがあるからだ。

 この王宮にいる全ての者を殺し、この王都にいる全ての者を殺し、この王国にいる全ての者を殺すのだ。

 それが迷信と偏見で殺された老婆への供養となる……そう信じて、骸骨は王宮の奥へと歩き始めた。




その年、辺境の地にある小国、ヘルダンス王国が滅びた。




皆さま、いつも「五芒星の後継者」を読んで頂き、ありがとうございます!


さて、第四章の最後に、知死者(モルス)の外伝を四話載せてみました。

理不尽に老婆を殺されてしまい、その復讐という強い執念のため、知死者(モルス)になった男の結末を書いてみました。知死者(モルス)の「縛り」の理由もお分かりになったかと思います。


それでは、これからも「五芒星の後継者」をよろしくお願いします!


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