第百十二話 聖人級の超上級魔法
知死者は笑みを止めると詠唱を始めた。
「炎の流星群!」
すると、遥か上空にこぶし大の大きさの隕石が無数に現れる。隕石はシャスターに向かって一直線に降り注いだ。
しかも隕石は摩擦熱で燃えながら凄まじいスピードで落ちてくる。一つでも当たったら致命傷だ。
しかし、それでもシャスターは動かない。
そんなシャスターを見て、知死者の目が赤く光る。勝利を確信しているようだ。
「炎の流星群は勇者級の火炎系魔法だ。疲れて動くことができない汝はこれで終わりだ」
「火炎の螺旋」
動かないままのシャスターが再び魔法を唱える。すると彼を包むように炎の渦が現れ、螺旋状に高速で回転し始めた。
しかし、知死者はシャスターを憐れむように苦笑した。
「残り僅かな魔力を振り絞って、火炎の螺旋を放ったのだな。しかし、残念ながら火炎の螺旋はレベル三十台の火炎系魔法。勇者級の炎の流星群を防げるはずが……」
しかし、知死者の苦笑も途中で止まってしまった。
シャスターの身体を螺旋状に回転している炎の渦が、夜空から落ちてくる隕石を全て防いでいるからだ。
「ば、ばかな……」
知死者は驚きの声を上げた。炎の螺旋が隕石を全て溶かしているように見える。
「レベル三十台の超上級魔法がレベル四十台の勇者級魔法を防ぐなど、そんなはずが……」
そこで、再び知死者は言葉を止めた。
その理由に思いついたからだ。
しかも、分かった瞬間、知死者は自分でも信じられないことに少しだけ後づさっていた。
その理由には可能性として思いついただけで、実際には不可能だからだ。
その理由とは。
「まさか、まさか……プラスの特殊効果か!?」
「ご名答!」
シャスターは笑ったが、対照的に知死者は恐怖を感じていた。
「特殊効果が付けられる魔法は、火炎球などのレベル一の初級魔法、基本中の基本の魔法だけのはず……」
火炎球はレベル一の初級魔法だが、レベルが十上がるごとに、火炎球+1、火炎球+2……と、中級用、上級用……と魔法の威力を上げることができる。これが特殊効果付与だ。
実際、シャスターもアイヤール王国で、シーリス魔法学院後継者ヴァルレインの偽者と戦った際、レベル五十台である英雄級の火炎球+5までを放っている。
しかし、プラスの特殊効果付与できるのは、レベル一の基本中の基本の魔法だけだ。レベル三十台の超上級の魔法である火炎の螺旋で、プラスの特殊効果の付与が出来るはずがない。
「な、なぜだ……」
「アンタ、勘違いしているよ。誰が火炎球のみしかプラス効果が付与できないと決めた?」
「!!」
シャスターにそう言われて、知死者は迂闊にも今更ながら気付かされた。
そう、誰が決めた訳ではないのだ。
火炎球はレベル一の基本魔法だからこそ、比較的人数の多い多いレベル十台の中級、二十台の上級魔法使いがプラス1、プラス2と使っているだけなのだ。
そこに決まりはない。勝手な固定観念なのだ。
しかし、だからといってレベル三十台の螺旋の炎にプラスの特殊効果を簡単に付けられることにはならない。
魔力消耗の少ない初級魔法の火炎球程度なら、一つや二つ上のクラスの魔法使いでも、プラス効果付与は簡単にできるだろう。
しかし、火炎の螺旋は初級魔法ではない。魔力消耗が桁違いに大きい超上級魔法なのだ。
超上級から魔法使いの数は一気に少なくなる。それほど超上級レベルに到達することは困難だ。
そんな超上級魔法のプラス1の効果付与となれば、一つ上のクラスであるレベル四十台勇者級では到底無理だ。
「四十台の炎の流星群を易々と防ぐプラス効果付与ともなれば、レベル五十台、いや六十台の聖人級の魔法が必要だろう。汝は聖人級魔法使いなのか?」
知死者には信じられなかった。
彼自身、千年もの長い時間、魔力の鍛錬を行い続け、人間の時には到底不可能な領域までレベルを上げてきたのだ。
しかし。
目の前の人間はまだ少年なのに、自分の千年もの長きに渡って培った自分の魔法を簡単に防いでいる。
しかもだ。亡魔の騎士 を倒すために五発分の燃える花びらと地獄の業火を放ったのだ。魔力はほとんど残っていないはずだ。
それなのにさらに聖人級の魔法を使うなんて、あり得ない。
「……何者だ?」
知死者の問いかけに、シャスターは答えず、ニヤけながら魔法を唱えた。
「炎地獄」




