表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

318/810

第百九話 知死者モルス

 東大門イースト・グレートゲートから約三百メートル先の地点で両者は対峙した。



「へぇー、アンタが謎のアンデッドか」


 初めて見る魔物に興味津々のシャスターだ。


「喋ってみてよ。知性も高いから話せるでしょ?」


 魔物とはいえ初対面で不躾な質問を投げかけたシャスターだったが、アンデッドはそんなくだらない質問を遮った。


「汝は誰だ?」


 アンデッドがこもった声で訊ねる。


 アンデッドも目の前の少年を見つめていた。

 見たところ、ただの旅人風情だが、そんなはずはない。ただの旅人がこのような場所に現れるはずがないからだ。

 しかも、少年は自分の姿を見て驚くどころか、興味を持って話しかけてきている。

 大胆不敵な少年が只者のはずがない。しかし、エースライン帝国が誇る十輝将にも見えない。



「シャスター、魔法使い(ウィザード)さ」


 少年が名乗ったので、アンデッドも自らを名乗る。


「我は知死者(モルス)と呼ばれる者。名は……忘れた」


「やはり、知死者(モルス)か!」



 シャスターはまじまじと見た。

 その姿は骨と皮だけのミイラのようだ。

 知死者(モルス)はボロボロになった黒いローブを見に纏っていて、薄汚い魔法使い(ウィザード)のように見えるが、指にはいくつもの綺麗な指輪をはめているし、右手には装飾が付いた杖も持っている。


 |知死者モルス》は高い知性はあるものの、魔法研究に没頭している為、身なりを気にしない者が多い。しかしながら、マジックアイテムを収集することに関しては貪欲だ。はめている指輪はおそらく貴重なマジックアイテムなのだろう。


 高位の魔法使い(ウィザード)が強い執念でアンデッド化した知死者(モルス)は、生前の自我や記憶がある程度は残っており、何百年、何千年もの長い時間研鑽を重ねて、さらに巨大な力を持った魔法使い(ウィザード)となる。



「何をジロジロと見ている?」


「いやー、知死者(モルス)を初めて見るからさ。それに、知死者(モルス)がエースヒルのような超巨大都市に現れるなんて普通有り得ないし。何故かなと思って?」



 知死者(モルス)は魔法の探求者だ。

 魔法研究に没頭しているということは、世の中に興味がない。だから、滅多に人里に現れることもない。

 稀に現れることもあるが、その時は現れた場所は滅びる。なぜなら、知死者(モルス)が現れるということは、その場所で魔法実験をするということだからだ。

 町や村あるいは小国の犠牲など知死者(モルス)は厭わないのだ。

 ある意味、危険極まりなくタチの悪い凶悪なアンデッドだ。


 しかし、だからこそ、エースライン帝国の帝都エースヒルに現れるのはおかしい。

 知性のない魔物が何も考えずに帝都を襲うのとは訳が違う。高い知性がある知死者(モルス)は、帝都エースヒルの防御力の凄さを知っている。

 いくら知死者(モルス)が強い魔物であっても、帝都を襲って無事であるはずがないことも分かっているはずだ。

 それなのに何故襲おうとするのか、シャスターは不思議に思ったのだが。



「汝に理由など話す必要はない。ここで死ぬのだからな」


 知死者(モルス)の両目が赤く輝く。


火炎の円盤(ファイア・サークル)


 突然、知死者(モルス)からカッター状の薄い炎のリングがシャスターに向かって放たれた。先ほど三個小隊を一撃で全滅させた魔法だ。


 炎のリングは知死者(モルス)から離れるほどに巨大化し、シャスターに襲い掛かるが、シャスターは高く跳躍して空中に逃れた。彼の体術であれば、避けることなど問題なかった。


 しかし、それは知死者(モルス)の想定内であった。

 空中に逃げたシャスターに火炎球(ファイア・ボール)が襲い掛かる。しかも、一つや二つではない。何十もの火炎球(ファイア・ボール)だ。

 これにはシャスターも驚いた。空中なので身動きがとれない。


火炎の壁(ファイア・ウォール)


 シャスターの唱えた炎の壁が、炎の球を全て防いだ。

 そのままシャスターは地上に降りた。



「我と同じ、火炎系魔法使い(ウィザード)か。面白い」


「そりゃ、どうも」


 この程度で勝敗がつくなどとは最初から思ってもいない。

 二人は互いに距離をとった。




「帝都を襲うことを諦めないのなら仕方がないな。別にアンタに恨みはないけど、ここで消えてもらうよ」


 まるで悪役のような台詞をシャスターが吐いた。


「我を消すだと? 少年よ、面白いことを言う」


「冗談じゃないけど」


「まぁ、そうだろうな」


 いきなり肯定されて、シャスターは肩透かしを食らう。


「本来なら、この場に来るのは十輝将のはずだ。たとえ我が呼び出した三体の亡魔の騎士(フィーンドナイト)の討伐に十輝将が向かったとしても、他にも十輝将がいるはずだ。それなのに、なぜ汝がここに来たのか?」


「……」


「答えは、汝が十輝将以上の力を持っているからだ」



 知死者(モルス)は遥かに高くそびえる東大門イースト・グレートゲートの上を見上げた。そこには小さな人影が立っていた。

 エーレヴィンだ。

 しかし、見上げたのは一瞬のことで、知死者(モルス)はすぐシャスターに視線を戻した。


「我が、どれほどの魔力を持っているのか、その実力を測る為には魔法使い(ウィザード)の方が分かりやすい。つまり、汝をここに遣わした者は、我の魔法使い(ウィザード)としての実力を知りたいのだろう」


(ほぉー)


 知死者(モルス)の推測を聞いて、シャスターもエーレヴィンも互いに心の中で感服した。

 明らかに今まで二人が見てきた魔物とは違う。状況判断が的確であり、知性が極めて高い。

 これが知死者(モルス)なのか。


 しかし、だからこそ先ほどからの大きな疑問が残る。

 それほど状況判断ができる者が、本当に帝都エースヒルを滅ぼせると思っているのか。



「そこまで分かっているんだったらさ。帝都に攻め込むなんて馬鹿な真似は……」


「無理だな」


 シャスターの提案を遮って、知死者(モルス)は拒絶した。



「お喋りはここまでだ。少年よ、掛かってくるがよい」


 知死者(モルス)が笑い声を上げた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ