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第百七話 イースト・グレートゲートへ

「リーブ副将、東大門イースト・グレートゲートを警備する大隊は?」


「第五大隊です」


「第五大隊と情報を共有し、至急東大門イースト・グレートゲートの外にいる旅人たちを帝都内に避難させるように」


 八ヶ所ある帝都の大門(グレートゲート)は、深夜になると閉じられ出入りができなくなる。そのため、閉門時間に間に合わなかった商人や旅人たちは門の外で一夜を過ごすことになるのだが、このままでは東大門イースト・グレートゲートの外にいる人々に被害が出てしまう。


 そこで、緊急処置としてエーレヴィンは指示を出したのだが、リーブ副将からは意外な返答が返ってきた。


「すでに八つの各大門(グレートゲート)を一時的に開放し、大門(グレートゲート)の近くにいた者たちを全て帝都内に避難させております!」


「……リクスト将軍の指示か?」


「はい」


 誇らしげに胸を張るリーブ副将にエーレヴィンは微笑んだ。


「さすが、リクスト将軍だ!」


 黒い魔物が現れた時点で、リクスト将軍は各大門(グレートゲート)を守るそれぞれの大隊に指示をして、迅速に外にいた人々を帝都内に避難させていたのだ。

 もちろん、ただやみくもに大門(グレートゲート)を通したわけではない。大隊の兵士たちを使い、旅人たち一人ひとりをしっかりと確認し、身元や持ち物等のチェックを行った。

 そして、大門(グレートゲート)の近くにいた全員を帝都に非難させた後、各大門を再度閉じたのだ。


 急変が起きた直後、短時間のうちに万が一のことを想定して万全の準備を行う……なかなかできることではない。



「あの若さで、なかなかやるね」


「ああ。帝都はリクスト将軍に任せておけば安心だ」


 魔物討伐に赴く前のリクスト将軍本人にも同様なことを伝えて賞賛したエーレヴィンだったが、別に持ち上げている訳ではなく、本心であった。

 常に冷静さを持ち、的確に状況を判断し、すぐに行動することができる。若干十五歳の少年は貴重な人材なのだ。



「まぁ、これで俺も何の憂いもなく戦えるというわけだ」


 シャスターが大きなあくびをしながら立ち上がった。知死者(モルス)のもとへ向かうためだ。

 それを見て、エーレヴィンが新たな指示を出す。


「リーブ副将、聞いての通りだ。魔法対魔法の戦いになる。シャスターが思いっきり戦えるよう、東大門イースト・グレートゲート付近一帯の防壁を第一級戦闘用防御魔法に変更。また、何人たりとも東大門イースト・グレートゲートから外に出ることは禁止だ」


「はっ!」


 リーブ副将がすぐに動き出す。司令官の席にはシャスターとエーレヴィンだけとなった。



「さて、俺も転移魔法装置を使って東大門イースト・グレートゲートに向かうよ」


 シャスターが司令室から出ようとするが、エーレヴィンがそれを止める。


「シャスター、待ってくれ」


「ん?」


「私も連れて行ってもらいたい。この目でお前の戦いを見てみたいのだ」


 エーレヴィンの要望にシャスターは露骨に嫌な顔をした。


「転移魔法は多くの魔力を消耗するんでしょ。魔力のないエーレヴィンはどうするつもり?」


「もちろん、お前の魔力を使うつもりだ」


「はぁ……」


 転移魔法装置は大量の魔力を使って転移するのだが、転移する者の魔力でなくても構わない。そこで、エーレヴィンは自分の転移分もシャスターの魔力を使おうとしているのだ。


「リクスト将軍の話だと、かなりの魔力を消耗するんだよね?」


「ああ。超上級の魔法使い(ウィザード)の魔力が無くなるほどだ」


 それほどのものであれば、シャスターだって多くの魔力を消耗してしまうはずだ。


「それが分かっていながら、二人分の魔力を俺に使わせて、さらに知死者(モルス)と戦わせようとしているの?」


「そのつもりだが」


 エーレヴィンが笑った。シャスターの困った顔を楽しんでいるようだ。


 二人分の魔力を消耗した後、知死者(モルス)と戦えというのだ。ワガママを通り越して無茶苦茶だ、と文句を言おうとしたシャスターだったが、先にエーレヴィンが口封じの攻撃を仕掛けた。


「もちろん、見物料を払う。追加で金貨二千枚だ」


「さて、東大門イースト・グレートゲートに行こうか」


 急に態度を変えたシャスターと、その態度に苦笑しているエーレヴィンは司令室から出ていった。



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