第百六話 不死の魔法使い
リーブ副将から知死者という言葉を聞いて、士官たちがざわめく。
彼らは知識として知死者の存在は知っていたが、見るのは初めてだからだ。
発言をしたリーブ副将自身も初めて見る。亡魔の騎士も珍しい魔物だが、知死者はそれ以上に珍しい。
「知死者か……少し厄介だな」
エーレヴィンが腕を組んで画面を見つめた。
その横顔を見てリーブ副将は改めて驚いた。皇子殿下の真剣な表情を見るのは久方ぶりだからだ。
知死者とは高位の魔法使いがアンデッド化した存在だ。
スケルトンやゾンビのように自然的、偶発的にアンデッド化したり、誰かの手によってアンデッド化されたのではない。また、知死者には生前の自我や記憶がそのまま残っている。
高位の魔法使いがアンデッド化し、何百年、何千年もの長い時間、魔法の研鑽を重ねて、さらに巨大な魔法使いになった存在、それが知死者なのだ。
「俺も初めて見るよ」
シャスターがつぶやく。
「広大なアスト大陸でも、知死者は数えるほどしかいないだろう」
そもそも高位の魔法使いなら、誰でも知死者になれる訳ではない。
自らのアンデッド化は禁術魔法である為、普通ではなることはできない。何かしらの大きな感情の起伏によって、死ぬ間際に強い生への執着心を持った者だけが、知死者になれるという話だ。
「アスト大陸の歴史書には、知死者によって滅ぼされた国が幾つも記載されている」
「たった一人の知死者に……ですか?」
「そうだ」
エーレヴィンの説明にリーブ副将は息を飲んだ。
桁違いのとんでもない化け物だということだ。このまま帝都に侵入した場合、多大な犠牲が出ることは避けられないだろう。
多くの兵士だけではなく、住民にまで被害が出てしまう可能性がある。リーブ副将の顔から血の気が引いた。
「安心しろ。ここにも一国を滅ぼす力を持っている化け物がいるからな」
リーブ副将を安心させようとして、エーレヴィンはシャスターを見ながら苦笑した。
その時だった。
知死者を包囲するかのように大勢の兵士たちが現れた。
「あれは?」
「近くにいた三個小隊のようです」
リーブ副将に仕官が答える。おそらくは中隊の緊急要請を受けて駆けつけたのだろう。
「馬鹿な、中隊が一瞬で全滅したのだぞ! すぐに撤退……」
「もう遅い」
シャスターは画面を見つめている。
知死者の身体を囲うようにして円盤状の炎が現れたかと思うと、その炎の輪が急速に大きく拡大していき、知死者を包囲していた兵士たちの胴体を鋭利な刃物で斬ったかのように一瞬で切断してしまった。
三個小隊約百五十名の兵士たちは自分たちに何が起きたのか理解できぬまま、上半身と下半身を真っ二つにされて絶命してしまった。
「やはり魔法か」
「火炎の円盤、カッター状の薄い炎のリングが相手を切断する、勇者級の火炎系魔法だ」
その威力の凄まじさは画面越しでもこの場にいる全員に伝わる。
圧倒的な強さを誇る知死者。
帝都防衛司令室に沈黙が広がった。
皆さま、いつも「五芒星の後継者」を読んで頂き、ありがとうございます!
新たな強敵、知死者が登場しました。
亡魔の騎士同様、オリジナルの魔物です。
まぁ、読んで頂くと分かりますが、リッチとほぼ一緒です笑
世界観を出したくて創作してみました。
今後も既存、新規含めて、色々な魔物が登場していくと思いますので、楽しみにして貰えたら嬉しいです。
これからも「五芒星の後継者」をよろしくお願いします!




