第百五話 新たな敵 &(登場人物紹介)
「何事が起きたのだ?」
リーブ副将の声に、上位仕官が現状を伝える。
「第十八中隊からの応答が途絶えました。三百人全員が全滅した模様です」
「第十八中隊から連絡があったのは、つい先ほどではなかったのか?」
「はい。中隊長からの緊急連絡を受けてから、この映像まで一分程です」
「たったの一分で……」
リーブ副将は唸った。僅かな時間で三百人が全滅したということだ。
信じたくはないが、目の前の悲惨な光景がそれが事実だと物語っていた。
「こちらが敵を感知する前に、運悪く中隊が遭遇してしまったか」
エーレヴィンは静かに目を閉じた。
帝国の兵士は全て職業軍人だ。つまり、自ら兵士となることを選んだ者たちだ。
帝国を守るために魔物と戦うことも、その先に死が待っていたとしても、冷たい言い方をすればそれは職務として当然のことだ。
しかし、だからといって、帝国の兵士がむざむざ殺されて、心が痛まないはずがない。
「敵の補足はできているのか?」
リーブ副将の質問に答えるかのように、大画面の映像が切り替わる。そこには帝都防壁に近づく黒いフードを纏った者が映っていた。
「東大門、七百メートル付近まで近付いてきています」
映像だと、まだどのような敵なのか、人か魔物かさえも特定はできないが、帝都には近付いて来ているのは確かだ。
「三百人を一瞬で倒したということは、魔法を使うのかもしれないね」
「お前と同じか」
魔法対魔法の戦いになるということだ。
さらに敵はゆっくりと近づいて来る。
「敵が帝都防壁に近付いてきた為、東大門からの高感度映像に切り替えます」
画面の映像が高画像になり、敵の姿が鮮明に映し出される。その瞬間、リーブ副将が驚きの声を上げた。
「あれは、まさか……」
それは人間と同じほどの大きさだった。
ぼろぼろになった黒いフードを被りながら、帝都には向かってゆっくりと歩いている。それだけならば、汚い身なりの魔法使いとなるのだが。異様なのは、フードの中から見えている身体だった。
骨だけのスケルトン、いや、多くの骨には皮膚がへばりついている。ミイラのような皮を被ったスケルトンだ。
しかし、リーブ副将は魔物がただのスケルトンではないことを知っていた。
下級アンデッドのスケルトンとは比較にならない程の強さを誇るアンデッド、上級アンデッドの代表格。
この魔物なら、亡魔の騎士でさえも使役できるのは納得だった。
そして、高度な魔法を使う、魔法使いのアンデッド。
「知死者……」
その正体を声に出したリーブ副将の背中には、冷たい汗が流れていた。
第四章「魔物の王」編
これまでの主要な登場人物
シャスター
伝説の魔法学院、火炎系魔法の最高峰であるイオ魔法学院の後継者であり、「五芒星の後継者」のひとり。
レーシング王国で魂眠に陥ってしまったフローレを治す方法を探しにエースライン帝国に向かっていたが、途中でエルシーネに半ば強引に頼まれてゴブリン討伐を行った。
エースライン帝国のシャード皇帝から国賓として帝都に招かれ、パーティーが開かれているが、その真っ只中、帝都に魔物が現れた為、多額の報酬と引き換えに、エーレヴィンから魔物討伐を頼まれている。
カリン
神聖魔法の使い手。
魂眠に陥ったフローレを治す方法を探す為、シャスターと共に旅に出た。
神官レベルが一気に三十五に上がり、ファルス十二神全ての神との契約者となってしまった為、シャード皇帝からはファルス神教の祝福者と呼ばれた。
十二神全てと契約した者は広大なアスト大陸でも、カリンたった一人しかおらず、さらにファルス神教で異端神扱いの冥界神デーメルンとも契約ができてしまった為、今後のカリンの神官としての潜在能力は未知数。
現在、パーティーでエルシーネと一緒に酔っ払い中。
星華
シャスターの守護者。
稀有な職業「忍者」、その中でも上忍しか名乗ることが許されない「くノ一」の称号を持つ。
自分の素性を守るためなら、エースライン帝国皇帝の前でさえも記憶を消す薬を撒くほど、怯むことなき性格であり、大胆さと冷静さを持つ。
帝都に現れた三体の亡魔の騎士の一体を易々と倒した。
エルシーネ
七大雄国の一角、エースライン帝国の第二皇女であり、帝国の有するペガサス騎士団の騎士団長、そしてエースライン帝国が誇る十輝将のひとり。
シャスターとは以前からの知り合い。
シャスターと共に、ゴブリン・ロードの本拠地に向かうが、それ自体がゴブリン・ロードの陽動であり、さらに兄エーレヴィンの策略に乗せられたことを知り憤慨する。
帝都に着いて早々、エーレヴィンにそのことについて抗議するものの、敢えなく撃沈。
現在、パーティーでカリンと一緒に酔っ払い中。
ザン将軍
エースライン帝国、南東部の国境都市シャイドラの統治者であり、帝国の南東一帯を守護している。
帝国が誇る十輝将のひとり。
軍を率いてアイヤール王国へと向かい、ゴブリン軍を殲滅させた。
その後、シャスターたちと共に帝都に赴いた。
アルレート将軍
エースライン帝国が誇る十輝将のひとりで、帝国の東部を守護している。
戦術を駆使するのが得意であり、五万ものゴブリンの大軍も殲滅させ、彼自身はゴブリン・ロードを圧倒的な力の差で倒した。
パーティーの最中、シャスターと無断で試合をしていたが、リクスト将軍に見つかってしまい、その罰として帝都に現れた亡魔の騎士一体の討伐を命じられて倒した。
リクスト将軍
弱冠十四歳にして十輝将となり、百五十万人を抱える帝都エースヒル防衛の最高責任者。現在、十五歳。
将軍になる前はアルレート将軍下で副将を務めていた。
パーティーの最中、帝都に現れた亡魔の騎士一体を倒した。
エーレヴィン
エースライン帝国宰相。
また、シャード皇帝の皇子であり、エルシーネの兄。
戦略の天才であり、今回のゴブリン・ロードのフェルノン山脈北からの帝国侵攻も読んでいた。
そのため、エルシーネたちを陽動に使ったのだが、それがエルシーネを憤慨させている。
シャスターとは仲が良い。
現在、帝都防衛司令室にて、新たに現れた魔物をシャスターとともに画面で見ている。
リーブ副将
リクスト将軍配下の副将であり、リクスト軍の序列二位。
幾つもの組織に分かれている特殊なリクスト軍をまとめている有能な人物。
また、その実力は亡魔の騎士を余裕で倒せるほど。
クラム大神官
年齢不詳の穏やかな美しい女性。
エースライン帝国でのファルス神教の最高位の神官であり、周辺国でも大きな影響力を持っている。
ファルス十二神のうち、冥界デーメルン神を除く十一神と契約をしており、神官としての能力・実力ともにトップ。
カリンに会いにパーティー会場に訪れ、悩んでいるカリンに優しくアドバイスをした。
亡魔の騎士
元々悪人だった者たちが死んだ後、邪悪な精神が長い年月をかけて集まり、力を持つようなった魔物。
精神体の為、肉体はない。そこで鎧をまとい、黒い霧のような精神体の身体を守っている。
帝国でもここ百年近く出現記録が無いほど珍しい魔物であり、強さはゴブリン・ロード以上といわれている。
帝都に三体現れたが、アルレート将軍、リクスト将軍、星華にそれぞれ倒された。




