第百四話 前哨戦の後
「これから現れる敵は、亡魔の騎士を操っている者だ」
エーレヴィンが前面に映っている何十もの魔法画面を見ながら呟く。
ここは帝都防衛の司令室だ。少し前までリクスト将軍がいた場所に、今はエーレヴィンとシャスターが座っていた。
二人は、リクスト将軍、アルレート将軍、星華が戦いに向かった後、状況を確認するため、そして転移魔法装置がある帝都防衛司令室に来たのだ。
「今のところ、亡魔の騎士が現れた三ヶ所以外に帝都周辺に異常はありません」
二人の後方でリーブ副将が固くなった表情で報告した。
いきなり司令室に皇子殿下と五芒星の後継者が現れたのだ。緊張しないわけがない。
三ヶ所の地震を起こした黒い魔物の正体は亡魔の騎士だった。非常にレアな上位アンデッドであり、実力でいえば王化した魔物よりも強いかもしれない。
そのため、三ヶ所に向かった各小隊は残念ながら全滅をしてしまった。
しかし、それほどの強さを誇った亡魔の騎士をリクスト将軍たちは簡単に倒してしまった。
改めて、十輝将の強さを思い知ったリーブ副将であったが。
「何を言っている。リーブ副将も亡魔の騎士レベルの魔物なら余裕で倒せるだろう?」
エーレヴィンに笑われてしまい、ますます固くなってしまったリーブ副将であった。
エーレヴィン、シャスター、その後方でリーブ副将がいくつもの画面を見つめていたが、しばらくすると士官たちから慌ただしい声が聞こえてきた。
「帝都外周を巡回している第十八中隊から緊急連絡です! 帝都から東、八百メートル地点で異常が発生とのこと」
「魔物らしきものが現れたとのことです!」
「映像映します!」
前面の画面が大きく映り変わる。すると、そこには異様な光景が映し出されていた。
「これは……」
リーブ副将は絶句して声が出ない。
帝都周辺であれば夜盗や魔物が現れたとしても、巡回している小隊、中隊が即座に討伐してくれる。そのため、帝都の門が閉まる時間に間に合わなかった旅人や商人たちも安心して帝都周辺にテントを張って休むことができる。
そんな百以上の小隊や中隊が帝都周辺を四六時中、巡回しているのだ。帝都エースヒルの周囲は安全が確保されていた。
特に中隊とは三百人からなる兵士の集団であり、戦力としても充分な規模だ。
だからこそ、リクスト将軍も三体の亡魔の騎士が現れた時……その時はまだ黒い魔物の正体は不明だったが……、小隊の後続として中隊を向かわせたのだ。
中隊であれば、地震を起こした黒い魔物でも、ある程度の時間は足止めできると思ったからだ。
しかし、そんな中隊でも、新たに現れた魔物には全く歯が立たなかった。
魔法画面には、中隊が全滅した光景が映し出されていたからだ。




