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第百一話 前哨戦の前 1

「アルレート将軍とリクスト将軍、二人から連絡があった。黒い化け物の正体は亡魔の騎士(フィーンドナイト)とのことだ」


亡魔の騎士(フィーンドナイト)か……珍しい魔物だね」


「ああ」


「でも、まぁ亡魔の騎士(フィーンドナイト)程度じゃ、将軍たちは楽勝だね」


「そうだな」



 二人は何気なく会話をしていたが、もし亡魔の騎士(フィーンドナイト)を知っている者がいたら、腰を抜かすほどの驚いたはずだ。


 亡魔の騎士(フィーンドナイト)はレア級の魔物であり、町や村など簡単に滅ぼすことができる力を持っているからだ。

 大勢の大軍を率いるゴブリン・ロードと比べれば、総合力では落ちるだろう。しかし、亡魔の騎士(フィーンドナイト)とゴブリン・ロードを個体で比べれば、亡魔の騎士(フィーンドナイト)の方が上だ。


 そんな魔物を二人は楽勝だと話しているのだ。


 当然、その二人とはシャスターとエーレヴィンだった。





 ……話は、アルレート将軍たちが黒い魔物へ戦いに赴こうとする前に遡る。



 三ヶ所同時に現れた黒い魔物を倒しに、アルレート将軍、リクスト将軍と共に向かうはずのシャスターだったが、自身が行くことはなかった。エーレヴィンに止められたのだ。

 代わりに向かうことになったのが星華だった。


 エーレヴィンは星華が黒い魔物を倒しに向かうための報酬として、シャスターに金貨千枚を渡したが、さらに追加で金貨千枚を渡したのだ。


「これは?」


「追加の千枚は、この後に帝都に現れるであろう新たな魔物をお前に倒してもらうための報酬だ」


 その場には黒い魔物に向かう準備をしていたアルレート将軍とリクスト将軍もいたが、二人ともエーレヴィンの言葉の意味が分からない無能者ではない。


 帝都周辺の三ヶ所同時に地震を起こして黒い魔物が現れた。目立った行動の裏には理由がある。つまり、黒い魔物は陽動であり、別に本命の魔物がいるということだ。



「その大役、俺にさせてもらうことは……」


 言葉を発した途端、リクスト将軍に睨まれたアルレート将軍はバツが悪そうに頭を掻いた。

 そんな二人を見てエーレヴィンは笑みを浮かべた。


「アルレート将軍とリクスト将軍、それに星華殿は黒い魔物を頼む。当然ながら黒い魔物は陽動だ」


「了解しました」


 しかし、アルレート将軍には疑問が残る。


「陽動までして帝都を襲おうとするなんて、敵は何を考えているのですか?」


 エースライン帝国の帝都エースヒルは、それこそアトラ大陸で最も難攻不落の都市の一つだ。

 帝都を守る防衛力そのものが非常に高いのはもちろんだが、帝都防衛のリクスト将軍麾下の軍隊以外にも帝都にはいくつもの独立した武力が存在しているからだ。


 例えば、ファルス神教を守護する神教騎士団は十輝将それぞれの軍隊に匹敵する強さを誇る。

 あるいは帝都には多くの冒険者ギルドがあるので、招集をかければ高ランクの冒険者たちも大きな戦力になるだろう。

 さらに帝都に暮らしている人間以外の種族も、それぞれ自衛のための武力を有している。

 そして、アルレート将軍はチラッとエーレヴィンを見た。皇宮を守る、十輝将さえもほとんど知らされていない皇族直属の謎の少数精鋭の部隊もあると聞く。


 だからこそ難攻不落の帝都なのだ。如何なる強者や大軍が攻めてきても、帝都が陥落することは絶対にない。



「俺でも、さすがにひとりでエースヒルを陥落させることは無理かな」


 アルレート将軍の考えに追従したシャスターだったが、あまり冗談には聞こえなかったようで、リクスト将軍の顔が強張った。

 それを見て、エーレヴィンが苦笑する。


「アルレート将軍の言いたいことは分かる。シャスターの言う通り、『五芒星の後継者』でさえ、帝都エースヒルを陥すことはできないのだ。それなのに、敵は帝都に攻めてくる。陽動をしてくるほどの知恵があるのにだ。なぜだと思う?」


「……まさか」


 エーレヴィンからヒントを貰ったアルレート将軍は、その理由に気付いたようだ。驚きの表情に変わる。

 同時にリクスト将軍もエーレヴィンの考えにたどり着いていた。アルレート将軍同様に驚いている。


「その本命でさえ、何者かの陽動だということですか?」



 質問したアルレート将軍に直接答えることはせずにエーレヴィンはシャスターの肩を叩いて笑った。


本当の本命(﹅﹅﹅﹅﹅)ではないとしても、帝都に現れる敵は少なくとも三ヶ所に現れた黒い魔物よりも桁違いに強いはずだ。シャスター、よろしく頼む」


「えっー」


 黒い魔物を使役できるほどの圧倒的な強さを持つ魔物。そんな魔物をたったひとりで倒しにいけ、と言われているのだ。

 無理難題も甚だしかったし、シャスターがぼやくのも当然だった。

 しかし、ただぼやいただけだ。頼まれた本人は面倒だと思っているだけで、悲壮感は全くない。



「でも、まぁ悪い話ではないか」


 呟いたシャスターは少しだけ考える素振りを見せた。エーレヴィンから金貨を合計で二千枚貰ったのだ。タダ働きではない。


「いいよ」


 ゴブリン遠征に向かった時は、エルシーネに半ば騙された形で強制的に連れ出された。

 しかし、今回はしっかりと報酬が貰えるのだ。さすがエーレヴィンは頼み方を心得ている。同じ兄妹でも雲泥の差だ。


 了解したシャスターは詳細を聞き始めた。




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