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第九十九話 双剣

 中隊長たちと同様に、亡魔の騎士(フィーンドナイト)もリクスト将軍の剣技に驚いていた。


「二刀流……シカモ 双剣ダト!?」



 リクスト将軍の双剣は一つの剣を真っ二つに割ったような、まさに双子の剣であり鞘にも一緒に入っていた。

 だからこそ、最初の一撃を盾で防いだ亡魔の騎士(フィーンドナイト)は、まさか双剣だとは思わずに騙されてしまったのだ。


「シカシ、剣ガ二本ト ナッタダケ。ソレダケノコトダ」


 冷静になった亡魔の騎士(フィーンドナイト)は笑った。非力な小僧が双剣で攻撃してきても、その威力などたかが知れている。

 実際、首を狙った二撃目の左剣攻撃は、瘴気の身体を傷付けることさえ出来なかったのだ。


 しかし、当の少年は全く悲観している様子がない。



「やはり、アンデッドでも亡魔の騎士(フィーンドナイト)クラスになってくると、魔法の剣(マジック・ソード)は効かなくなるのですね。あるいは、瘴気の身体だから剣の物理的攻撃は効かないのでしょうか。しかし、亡魔の騎士(フィーンドナイト)の剣や鎧は物理的攻撃や防御を持っている……」


 まるで戦っている最中であることを忘れているかのように、リクスト将軍は独り言を呟きながら考えごとをしていた。


「つまり、邪悪な思念の集合体が瘴気となった時に、剣と鎧も同時に形成されて亡魔の騎士(フィーンドナイト)になるということか」


 まだ若く、戦いの実戦が少ない少年にとって、亡魔の騎士(フィーンドナイト)はエースライン帝国領内でほとんど見かけることがない希少な魔物であった。

 だからこそ、戦いよりも好奇心の方が勝ってしまう。



「フザケルナ!」


 無視されている亡魔の騎士(フィーンドナイト)の大剣が、考え事をしているリクスト将軍の頭上に振り下ろされる。

 しかし、リクスト将軍は間一髪のところで避けた。

 いや、少年の表情を見れば、間一髪に見えるだけで、本人は余裕で避けたのだ。それが証拠に避けた後も息一つ乱してはいない。



「亡魔の騎士フィーンドナイトの特性が分かり、勉強になりました。しかし、もう用はありません。あとは部下たちの仇をとるだけ」


 リクスト将軍の視線が鋭くなった。


「何ダト?」


「私の武法(ぶほう)の中には、普通では斬れないものを斬る技もあるのです」


「!?」


「あなたのような魔物にはちょうど良いでしょう。それではいきますよ」



 リクスト将軍を取り巻く空気が一気に変わった。

 少年から発せられる凄まじい威圧感は、亡魔の騎士(フィーンドナイト)でさえも今まで経験したことがないほどだ。

 これに比べたら、先ほどの口調が変わった時の威圧感など微々たるものだった。


「ワアア……」


 強力な威圧感をモロに受けた亡魔の騎士(フィーンドナイト)は少年に恐怖した。

 そして本能に従い逃げ出した。

 敵う相手ではないと悟ったからだ。



 しかし、リクスト将軍は追いかけることはしない。

 その場に立ったまま双剣を勢いよく振るった。


双空烈(そうくうれつ)!」


 リクストの放った斬撃が凄まじい二条の光となって互いに交差し合いながら、逃げていく亡魔の騎士(フィーンドナイト)に襲い掛かる。


「!?」


 亡魔の騎士(フィーンドナイト)は自身に何が起きたのか分からないまま、襲われた光の渦の中で鎧もろとも蒸発をしてしまった。

 光が消え去った後には何も残っていない。


 これこそが、リクスト将軍が習得している武法の一つ、双空烈(そうくうれつ)だった。

 強烈な光の波状攻撃は普通の魔物はもちろん、亡魔の騎士(フィーンドナイト)のような実体のない魔物でも消滅させてしまうほどの威力であった。




 その一部始終を見ていた中隊長たちは、しばらくの間、声を出すことさえ出来なかった。

 五十人の小隊を殺した化け物。

 その化け物を容易く殺してしまう少年。


 中隊長は「リクスト将軍は、あの化け物が五十体いても、ひとりで簡単に倒してしまう」と確信していたが、実際目の前で見るとやはりその凄さに圧倒されてしまった。


「これが最年少で十輝将になられた方の実力……」


「私は帝都が心配なので戻ります。後のことは任せます」


「あ……はっ!」


 中隊長たちは呆然のあまり、リクスト将軍が近づいてきたことさえも気付かなかった。


 そんな彼らに事後処理を頼んだリクスト将軍は、馬を駆けて帝都に戻っていった。






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