第九十八話 天才の剣術
亡魔の騎士は苛立ちを感じていた。
目の前の少年に対して一方的な戦いをしているはずだ。それなのに、攻撃が全く当たらないからだ。どんなに素早く大剣を振り落としても避けられてしまう。
「イツマデモ 逃ゲルナ!」
業を煮やした亡魔の騎士が、ついに怒りを発した。
「ほぉ。やはり、言葉を話せるのですね」
リクスト将軍は納得するかのように頷くが、その間も亡魔の騎士は攻撃の手を休めない。
「フン! 我ガ 話スコトナド 最初カラ 知ッテイタハズダ」
「はい。しかし、これで意思疎通ができます」
「必要ナイ」
「こちらはある!」
今まで穏やかだったリクスト将軍の口調が変わる。
少年とは思えないほどの威圧感に、亡魔の騎士も一瞬たじろぐ。
「なぜ帝都エースヒルを襲おうとする?」
「……貴様ニハ 関係ナイ」
「関係なくない! 私は帝都を守る将軍だ。それにお前に殺された兵士たちは私の部下だ。私には責任がある!」
「貴様ノヨウナ小僧ガ 将軍ダト? 笑ワセルナ!」
亡魔の騎士が大きく大剣を振りかざす。
まさにその瞬間だった。
リクスト将軍が一気に攻撃に転じた。
地面を蹴り上げて跳び上がると、亡魔の騎士に向けて鞘から剣を抜く。
剣は亡魔の騎士の胸を突き刺そうとするが。
「無駄ダ」
しかし、その直前に亡魔の騎士の盾に簡単に防がれてしまった。
「小僧ノ 剣ナド 効カヌ」
亡魔の騎士は嘲笑したが、その笑いは一瞬で止まってしまった。
リクスト将軍のもう片方の手には、別の剣が握れていたからだ。
右手の剣を盾に当てながら、左手の剣で亡魔の騎士の首を襲う。
「リクスト将軍は二刀流なのか!」
その様子を遠くから見ていた中隊長は思わず叫んだ。
二刀流とは名前の通り、左右の両手にそれぞれ剣を持って戦うスタイルのことだ。
長所としては、二本の剣で戦う為、攻撃力が一本に比べて格段に上がる。逆に短所としては、両手で剣を扱う為、かなり高度な技量が必要だった。左右別々に剣を扱うのだ、並大抵な剣術ではないことは一目瞭然だ。
しかし、その二刀流を年端もいかぬ少年が使いこなしている。
「やはり、あのお方は天才だ」
中隊長の言葉に周囲の誰もが頷いた。
世の中には努力だけではどうにもならない壁がある。しかし、稀有な才能を持った者はその壁を越えることが出来るのだ。
だからといって、中隊長の気持ちにはひがみも妬みもない。それらの気持ちはレベルが近い者たちに対しての感情だ。
そんな感情を遥かに超えてしまうほどの圧倒的な実力差に、彼らは称賛の眼差しでリクスト将軍の戦いを見つめていた。




