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第九十話 戦略の天才

「エーレヴィン皇子殿下……」


 さすがのアルレート将軍も声が止まってしまった。

 リクスト将軍に明日の帝国会議での報告を無かったことにしてもらおうとしていたのは、まさにエーレヴィン皇子に報告されたくなかったからだった。

 しかし、その当の本人が目の前にいるのだ。今まで駆使してきた戦術が全て無駄になってしまった。


 完全なる敗北だ。


 しかも、エーレヴィン皇子はリクスト将軍に「良いではないか」とアルレートたちを手伝わせることを認めている。

 つまり、無断試合を知られてしまった上で、リクスト将軍の手伝いに行けと言っているのだ。

 おそらく、エーレヴィン皇子は出てくるタイミングを見計らっていたのだろう。アルレートがリクスト将軍に取引を持ち掛けるのを待っていたのだ。

 さすがは天才の名を欲しいままにしているエースライン帝国随一の智者だ。

 アルレートの戦術など、全てお見通しだったのだ。



「それじゃ、エーレヴィン。俺は関係ないから戻らさせてもらう」


 エースライン帝国の異変は帝国の者たちで対処すべきだ。

 部外者のシャスターはさっさと闘技場から出て行こうとする。


「あっ、そうだ。アルレート将軍、金貨は最初の千枚だけでいいから。勝った時に貰うはずだった追加の千枚は無しにしておいてあげるよ」


「……ありがとうございます」


 アルレート将軍としても消化不良の試合だった。

 またいつかシャスターと戦いたいと思っているが、今はそんなことを考える余裕さえなかった。まさかシャスターがこのタイミングで賭け事の話をしてくるとは……まさに最悪に最悪が重なってしまった。


「金貨を賭けていたのですか?」


 さらに冷たい視線でリクスト将軍がアルレート将軍を睨みつけている。


「あ、いや……はははは」


 アルレート将軍としては笑うしかない。しかも、エーレヴィン皇子の前だ。

 隠しようもない事実に、アルレート将軍は降参するかのように両手を挙げた。


「その、まぁ……、イオの後継者であるシャスター様に試合をお願いしておいて、タダというわけにはいかないだろう? それにせっかく試合するのなら、喜んでもらいたくてさ」


「アルレート将軍、あなたという人は……明日の会議ではこの件についても追加報告します」


 無許可の試合と、試合に金貨を支払ったこと、さらに試合の賭け事……明日の会議の冒頭でアルレート将軍は大変なことになるだろう。

 自業自得とはいえ、リクスト将軍は前上司が少しだけ可哀想になってきた。

 しかし、だからといって決まり事は守らなくてはならない。模範となるべき十輝将なら尚更だ。

 ため息混じりに哀れみ視線を向けたリクスト将軍だったが、直後にその表情が一変する。

 エーレヴィンがシャスターにある提案をしたからだ。



「それでは、シャスター。アルレート将軍から貰い損ねた追加の金貨千枚を私が払おう」


「!?」


「その代わり、リクスト将軍を手伝ってくれないか? もちろん帝国軍人ではないお前に頼むのだ。タダとは言わない」


 その報酬が金貨千枚ということなのだ。


 それを聞いて、リクスト将軍は唖然としてしまった。

 これでは会議での報告ができない。アルレート将軍の悪事に、皇子であるエーレヴィンが乗っかってしまったからだ。

 エーレヴィンが、リクスト将軍の職務の面目を保った上でアルレート将軍を助けた形だ。


 アルレート将軍も驚いている。当初からリクスト将軍の手伝いをして、報告を無かったことにしてもらうつもりだったので、アルレート将軍としては何も変わらない。しかし、助けられたことによって、エーレヴィン皇子に大きな借りができてしまった。


 シャスターとしても取りこぼした千枚の金貨を手に入れるためにリクスト将軍を手伝うことになる。


 三人とも完全にエーレヴィンの手のひらで踊らされている状況になってしまった。

 これこそが、戦略の天才の異名を持つエーレヴィンなのだ。



「……それでは、説明をします」


 気を取り直して、真剣な表情になったリクスト将軍が、帝都周辺で起きている異変を話し始めた。



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