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第八十四話 とっておきの武法  &(武法の解説)

「久々だな、こんなにも楽しいのは」


「ん?」


「いや、我々将軍ともなると、全力で戦える機会がほとんどありませんで、当然ながら練習試合でも全力は出せません。しかし、シャスター様となら全力で戦えるのが嬉しくて」


「それは、良かった。そっちも殺すつもりで構わないから」


「ありがとうございます!」


 何とも奇妙な会話だが、二人は至って真面目だった。殺し合いをすることを楽しんでいるのだ。




「それじゃ、再開しよう。火圧弾(フラマ・ブレット)


 シャスターの指先に灯っていた小さな炎が、目にも止まらぬスピードでアルレート将軍に襲い掛かる。

 常人なら目で追うことさえもできないはずだ。しかし、アルレート将軍は粒状の炎を避けた。

 彼の後方で結界に当たった炎が大爆発を起こす。


「うぉー! 当たっていたら致命傷だな」


 独り言を呟いて汗を拭ったアルレート将軍だったが、それだけでは済まなかった。


「次は十発同時に行くよ」


 シャスターの両手の全ての指に小さな炎が灯っている。


火圧弾(フラマ・ブレット)


 さすがにこれは避けることはできない。

 アルレート将軍は軽く舌打ちをすると、盾を前面に向けた。



金剛(こんごう)の防御!」


 すると再び盾が輝き始める。だが、先ほどとは輝きの色が違う。青白い光ではなく、透明に光り輝いている。

 その光が大きく広がると、アルレート将軍の前面に巨大なバリアが出来上がった。


 その直後にシャスターの放った火圧弾(フラマ・ブレット)が輝く透明なバリアに当たり、大爆発を起こす。しかも立て続けに十発だ。

 当然、バリアは跡形もなく破壊され、アルレート将軍も身体中がズタズタになって吹き飛ばされる……ことはなかった。


 爆風が去った後、盾を構えたままのアルレート将軍がその場に立っていたのだ。



「ほぉ、勇者級の武法かな? やるね!」


 再びシャスターが感心する。

 火圧弾(フラマ・ブレット)はレベル四十台、つまり勇者級の魔法だ。それをアルレート将軍は防御したのだ。


「やはり、シャスター様も勇者級の魔法でしたか」


 アルレート将軍は苦笑した。

 最初の「光輝の防御」は超上級の武法だ。それがシャスターに効かないのであれば、さらに上の階級、勇者級の武法を使うしかない。

 それが「金剛の防御」なのだ。



「さすが、防御にも定評があるアルレート将軍だ。盾の武法で火圧弾(フラマ・ブレット)を防ぐとは」


「ありがとうございます」


「でも、まぁ、火圧弾(フラマ・ブレット)は勇者級の魔法だからね。将軍なら防げて当然か」


「は、ははは……」


 褒められた後、いきなり蹴り落とされた気持ちになったアルレート将軍は、から笑いをするしかなかった。

 しかし、シャスターの言いたいことも分かる。

 将軍になるためには、総合戦士系のスキルが全てレベル三十以上、超上級でなければならない。

 当然、各自が得意とするスキルはそれ以上になる。そして、アルレート将軍が得意とするスキルは長剣と盾だ。

 であれば、アルレート将軍が超上級の一つ上の階級である勇者級の盾スキルが使えるのは当たり前であり、勇者級の武法を習得していても不思議ではなかった。




「そろそろウォーミングアップは終わった?」


「……おかげさまで身体が温まりました」


「それは良かった。もらえる金貨分の働きはしないと悪いからね」


 シャスターは笑った。アルレートも笑う。

 しかし、二人の笑いは対照的だった。一方は余裕の笑みに対して、もう片方はそこまで余裕がなくなってきていた。


「それじゃ、そろそろ決着をつけようか?」


「俺はもう少し楽しみたいのですが」


「いや、もう飽きてきた。火神の恵(プロメテウス)


 無慈悲に言い放ったシャスターの身体の周りをこぶし大ほどの青い炎の球がいくつも回り始めた。


「今度は勇者級の一つ上、英雄級の火炎系魔法だ。この魔法は攻守を兼ねているから、いつでも攻撃してきていいよ」



 シャスターは暗に英雄級の攻撃を仕掛けてこいと誘っているのだ。

 アルレート将軍としては強制的にその誘いに乗るしかないのだが、その間にも幾つもの火神の恵(プロメテウス)の炎の球がアルレート将軍に向けて放たれている。

 先ほどまでの火圧弾(フラマ・ブレット)も凄まじい破壊力だったが、今度の炎の球はその比ではない。

 たった一つでも小さな村ぐらいなら破壊できるだろうと、アルレート将軍は武人としての本能で感じ取った。


 だからこそ、当たったら最後だ。

 アルレート将軍は避け続けるが、さらに球の数は増えていく。


「ちっ!」


 あっという間に青い炎の数が十個以上に増えている。

 このままでは、アルレート将軍に当たるのも時間の問題だ。早く何とかしなくてはならない。

 避けながらアルレート将軍は大きくため息をつくと、盾を背中にしまった。




「シャスター様、これから見せるのは、誰にも見せたことがない、俺のとっておきの武法です」


「誰にも?」


「誰にも、です」


「それは楽しみだ」


 シャスターは面白そうに興味を示した。

 とっておきの武法ということは、勇者級のさらに上、英雄級の武法が見られるかもしれないからだ。


「だから、内緒でお願いします」


 悪戯っ子のように笑ったアルレートだが、すぐ真剣な表情になると両手で長剣を握りながら叫んだ。




皆さま、いつも「五芒星の後継者」を読んで頂き、ありがとうございます!


エルシーネやザン将軍、そして今回アルレート将軍が武法(ぶほう)を使っています。作中でも説明はしていますが、今一度、武法(ぶほう)の説明をしたいと思います。


「レベル三十台の超上級以上の戦士系職業の者だけが、長い年月鍛錬して編み出すその者独自の必殺技で、魔法が使えない戦士にとっては魔法のような威力を持つ特殊な技」

です。

そして、今までお話しに出てきた武法をまとめておきますね。


エルシーネ

剣舞をエルシーネが戦闘用に特化させた武法で、今まで登場したのは以下の通り。

疾風剣舞(しっぷうけんぶ)

常人では真似出来ないほどの速さで舞うことによって、剣から真空状態の鋭利な疾風が起こる。

流水剣舞(りゅうすいけんぶ)

まるで流れる水のような動きで、敵の間をすり抜けながら優雅に斬り伏せていく。

幻楼剣舞(げんろうけんぶ)

剣で空気の膜を作ることによって幻術のように短時間、姿を消すことができる。

飛影剣舞(ひえいけんぶ)

剣を優雅に回転させると、剣の周りに小さなナイフのような剣がいくつも現れ放たれる。



ザン将軍の武法

旋風斬(せんぷうざん)

大剣を凄まじい速さで回転させ、剣を中心に激しい旋風を起こし、敵の身体に穴を開ける。



アルレート将軍の武法

光輝(こうき)の防御

盾から放たれた青白い光が放射線状に大きく広がり、全身を覆い尽くすバリアとなる。

光輝(こうき)の斬撃

長剣が青白い光を纏いながら数倍も巨大化した長剣となる。

金剛(こんごう)の防御

盾が透明に光り輝いて大きく広がり、巨大なバリアとなる。光輝(こうき)の防御よりも防御力が高い。



今は三人の将軍だけですし、武法の種類もこれだけですが、これからも色々と出てきますので、お楽しみにして貰えたら嬉しいです。

これからも「五芒星の後継者」をよろしくお願いします!


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