第八十三話 直感
得意とする速さが活かせなくなってしまい、攻撃の選択肢の幅が狭まってしまったかのように思われたアルレート将軍だったが、その表情は悲観とは対極にあった。
「やはり、こうでなくては!」
思わず感嘆したアルレート将軍は自分が窮地に陥ったことも忘れて笑った。
「それでは、こちらも本気を出させてもらいます」
アルレート将軍は再び突進してきた。
しかも、先ほどよりも速いスピードだ。当然、シャスターが設置した透明爆弾が反応して爆発する。
しかし、アルレート将軍は爆発するのと同時に、盾や剣で防ぎながら爆発の直撃を免れている。
凄まじい素早さと反応力だった。
「へぇ、上手く避けるね」
しばらくの間、感心しながらシャスターは眺めていたが、すぐ目の前までアルレート将軍は来ている。
シャスターの余裕の笑みも消えていた。
「透明爆弾」
さらにシャスターは魔法を唱えて、爆弾の数を増やした。
これには、さすがのアルレート将軍も反応しきれなかった。爆発の直撃を受けて後方に飛ばされてしまい、勢いよく床に叩きつけられた。
「痛たたた……」
アルレート将軍は痛そうに両手で腰や背中をさすっているが、そこまで大きな怪我をしていないことをシャスターは分かっていた。
なぜなら、爆発直後にアルレート将軍が咄嗟に盾で攻撃を防いだのを見ていたからだ。痛そうにしているのは、床に叩きつけられたためだろう。
「なかなかやるね」
「いやいや、無様な姿でお恥ずかしい限りです。こんな姿、部下たちには見せられないので、こんな人気のない時間帯に試合をお願いしたのです」
シャスターの褒め言葉に、十歳も歳上の将軍は照れ笑いした。
しかし、相手がまだまだ幾つもの奥の手を隠していることは、互いに分かっている。
「それでは、再開しようか」
「はい」
シャスターは再び透明爆弾を放った。
今まで以上に爆弾の数が多くなった為、これではさすがのアルレート将軍でも避けようがない。
だが、懲りることなくアルレート将軍はシャスターに突進してきた。
当然、幾つもの爆弾が同時に反応する。
しかし、その直前。
「光輝の防御!」
アルレート将軍の左手に握っている盾が輝くと、盾から放たれた青白い光が放射線状に大きく広がる。
まるでアルレート将軍の全身を覆い尽くすバリアのようだ。
爆弾は青白い光のバリアにぶつかり次々と爆発するが、アルレート将軍は一切ダメージを受けていない。
これこそが、アルレート将軍の奥の手である武法だった。
レベル三十台の超上級以上の戦士系職業の者だけが、長年の修行でやっと習得できる、武器を使ったその者独自の必殺技。
それが武法だ。
魔法が使えない戦士にとっては、まるで魔法のような効果がある武法であるが、アルレート将軍の武法「光輝の防御」はカリンが使う神官の神聖魔法の防御壁に近い性質のものだった。
爆弾をバリアで防ぎながら、アルレートはシャスターの目の前まで突進してきた。
「光輝の斬撃!」
さらにアルレート将軍が叫びながら右手の長剣をシャスターの頭上に振り下ろす。
すると、今度は長剣が青白い光を纏いながら数倍も巨大化した長剣となり、シャスターに襲い掛かる。
防御の次は長剣を使った攻撃の武法だ。
これでは斬撃を避けたとしても、剣が纏っている青白い光の威力でシャスターはダメージを免れない。
勝利を確信したアルレート将軍は笑みを浮かべたが。
「吸収浄火」
次の瞬間、シャスターの胸元に現れた小さな炎の玉に、アルレート将軍の長剣に纏っていた光がまるで引力に引かれるかのように全て吸い込まれてしまった。盾を覆っていた光も同様だ。
何事が起きたのか分からないアルレート将軍だったが、攻撃の手は止めなかった。たとえ武法がなくとも、アルレート将軍が放つ長剣の一撃はそれだけでも充分過ぎるほど凄まじいものだからだ。
しかし、その一撃がシャスターに届く前に、アルレート将軍の長剣が止まった。
それどころから、アルレート将軍は反射的にはるか後方に跳び去る。
「またまた、よく気付いたね」
シャスターの指先には小さな火の塊が灯っていた。
粒状の小さな火の塊……しかし、アルレート将軍は直感で「危ない」と感じたのだ。
そして、その直感は大正解だった。
「そのまま剣を振り下ろしていたら、真っ黒焦げになれたのに」
「まさか、殺すおつもりで?」
「将軍なら死にやしないよ。すぐに高級ポーションで治してあげるしね。まぁ、二、三日は絶対安静だろうけど」
無邪気に笑うシャスターを見て、アルレート将軍の表情がひきつった。
恐怖……からではない、嬉しさのあまり引きつったのだった。




