第八十二話 後継者 対 十輝将
シャスターとアルレート将軍は闘技場に着いた。
皇区でも西の外れにある闘技場は、皇区に入ることが許されている上級武官たちが訓練や練習試合などのために使う施設だ。
当然ながら、武官の最高位である十輝将のアルレートは優先的に闘技場を使うことができた。
それにパーティーが行われている時間に、闘技場を使って好き好んで稽古をしている者はいない。
ドーム状の建物は中に入ると意外に広い。二人が戦うには充分だ。
シャスターはここに来ると、エルシーネに毎回負けていた昔の記憶が甦って嫌な気持ちになるが、金貨のためだ。
「俺がいつも愛用している剣を使っても良いでしょうか?」
「構わないよ」
「ありがとうございます」
アルレート将軍は鞘から剣を取り出した。剣は長身のアルレート将軍の肩ほど位までの長さがある、長剣だった。
そして左手には綺麗な模様が彫られている大きな楕円形の盾を持っていた。
攻守ともに隙のないスタイルだ。
「なるほど。その剣と盾でゴブリン・ロードを倒した訳か」
長剣と大きな盾だ、普通ならそれだけでかなりの重量だ。動くだけでも大変だろう。
しかし、この男はゴブリン・ロードのハンマーからの渾身の一撃を左手の盾だけで防ぎ、さらに空中を軽々と跳びながら、逃げるゴブリン・ロードをいとも容易く倒したのだ。
さすがは帝国が誇る十輝将のひとりだ。
一見、優男にしか見えないが、人を見た目で判断してはいけない良い例だ。
「それでは、いきます」
アルレート将軍はいきなりスピードを上げてシャスターに近づく。一気に距離が縮まる、とてつもない速さだ。
試合では、いつもこの速さでシャスターは将軍たちにアドバンテージを取られていた。
シャスターの動きも常人には見えない程の速さなのだが、それでも将軍たちの速さには到底太刀打ちできない。
数日前のシャイドラでのエルシーネとの試合でも、シャスターは一歩も動くことなく、素早いエルシーネの突きを食らって吹き飛ばされてしまったのだ。
しかし、今回は違った。
「!?」
驚いたのは、攻撃を仕掛けたアルレート将軍の方だった。
シャスターに向けて剣を突きつける寸前、剣先の空間が突然爆発したのだ。
それも一発ではない、連続して空間が爆発を起こす。何発もの爆発を辛うじて避けながら、アルレート将軍は一旦、後ろへ下がった。
「透明爆弾。見えない爆弾を俺の周囲にばら撒いたから、気をつけた方がいいよ」
シャスターが余裕の笑みを浮かべる。
今回は魔法を使ってもよい戦いなのだ。
「……さすが『五芒星の後継者』様ですね」
アルレート将軍の速さを活かした攻撃は、簡単に封じられてしまった。




