第八十一話 陥落した後継者
「それで、本当は何しに来たの?」
シメのスイーツを食べ終わったシャスターはアルレート将軍にストレートに尋ねた。
ただ挨拶するだけであれば、わざわざこんなところに来る必要はない。パーティー会場で済むことだ。
庭園のベンチでシャスターがひとりでいるところに人目を避けて現れるとは、何か特段な理由があってのことに違いない。
シャスターの質問にアルレート将軍は笑顔で頭を下げた。
「やはりお分かりですか。それでは単刀直入にお願いします。俺と勝負してください!」
本当に単刀直入だった。さらにアルレートが話を続ける。
「シャスター様は、帝都にいらしていた時、よく将軍たちと練習試合をしていたと聞いています。しかし、残念ながら俺はタイミングが悪く、帝都でシャスター様にお会いする機会がありませんでした。そこで、ぜひ……」
「いやだ」
「なっ!?」
アルレート将軍が驚く。
もちろん、簡単には了解をもらえるとは思っていなかった。しかし、あまりにも即決で冷たい対応にアルレート将軍はショックを受けた。
普通は断るにしても、もう少しやんわりと相手の気持ちを考えて断るものだ。それが激しい拒絶とは。
しかし、ここで諦めないのがアルレート将軍だった。
彼は戦術の天才だ。シャスターが回答する選択肢を予め何通りも用意しておいてある。その中には「有無を言わさず拒否」という選択肢もあった。
「もちろん、タダでというわけではありません」
アルレート将軍は魔法の鞄からいくつもの皮袋を取り出す。
「些少ではありますが、謝礼として金貨千枚を用意しています」
「ほぉー」
一瞬でシャスターの表情が変わった。
これこそが、アルレート将軍が戦術の天才といわれる所以だった。戦いの基本は相手のことを知ることだ。彼は情報戦の重要性を充分に理解していて、それを上手く使ったのだ。
勝敗は戦う前に決まっていた。
シャスターが金に目がないことは情報収集済みだ。
さらにアルレート将軍はトドメの一撃を放つ。
「シャスター様が勝利されれば、さらに追加で千枚を……」
「やろう!」
一気にシャスターはやる気になった。
「ありがとうございます! それでは皇区の西にある闘技場お越しください」
アルレートはすでに会場まで準備済みだった。
闘技場ならここから離れているし、場所的にも好都合だ。
「確か、あそこの闘技場は攻撃防御の結界が張られているんだっけ?」
「はい。西の闘技場あれば、レベル五十台である英雄級までの攻撃を闘技場に張られている結界が防いでくれるので安心です」
「ふぅん。でも、魔法を使うのは駄目なんでしょ?」
シャスターの声のトーンが若干落ちた。
彼は将軍たちと練習試合をする時、いつも魔法を使わせてもらえなかった。
「魔法を使われると勝負にならない」という理由で、毎回戦士として剣で戦っていたのだ。
そのおかげで、戦士としてのレベルは上がっていったのだが、そもそも剣での勝負でシャスターが十輝将に敵うはずがない。
つい先日もザン将軍とエルシーネに負けたばかりだ。
シャスターとしては、テンションが下がるのは仕方がない。
とりあえず、さっさと試合を済ませて金貨千枚だけもらって退散しようと思っていた。
しかし、アルレート将軍はそんなシャスターの気持ちを心地よく裏切った。
「魔法を使っても構いません」
「えっ!?」
「俺はフェアーな勝負がしたいのです。英雄級までの魔法なら、結界が防いでくれますので。俺は自分の剣を使います。シャスター様は魔法をお使いください」
「了解」
シャスターは無邪気に笑いながら、心の中ではほくそ笑んだ。
これで金貨二千枚が確定だと。




