第八十話 十輝将の条件
十人の将軍たちは畏怖と敬意を込めて十輝将と呼ばれていた。
その中でも、リクスト将軍の年齢は十五歳とあまりにも若く、普通で考えればまだまだ子供なのだが、エースライン帝国に十人しかいない将軍のひとりだ。
十輝将になる条件として、戦士の総合戦闘系スキルの全てが、レベル三十台である超上級以上が最低条件だ。
戦士系の職業もレベルごとに階級がある。レベル一の一桁台が初級、レベル十台が中級……と魔法使いと全く同じ階級制であるが、戦士系の場合は魔法使いと比べて、そこまでレベルを上げることは困難ではない。とはいえ、レベルが上がれば上がる程、レベルを上げていくのは難しくなる。
保有するスキルの中で一番高いスキルレベルが、その戦士系職業のレベルとなる。
一般的な戦士系であれば、戦闘系スキルの一つ程度なら一生を掛けて中級か上級までは上げることはできる。
しかし、一つのスキルだけだとしても、レベル三十台の超上級になる者は少ない。
つまり、最低条件が総合戦闘系スキルの全てが超上級である十輝将は凄まじい存在である。
さらに、たった十四歳という若さで全て達成したリクスト将軍は、ある意味歴代の将軍の中でも一番潜在能力が高いのかもしれない。
だからこそ、シャード皇帝はリクスト将軍を帝国の要である帝都防衛の最高責任者に任命したのだ。
そのリクスト将軍は、パーティーの最中であったが会場内にはいなかった。
彼は重要人物たちが集まっているパーティー会場を警備しなければならない。
「問題はありませんか?」
「はい。市街区、特区、皇区とも問題はありません」
副官の定時報告だ。
副官といっても年齢はリクスト将軍より二十歳以上も上だ。親と子ぐらいの年齢差であろう。
「ありがとうございます。リーブ副将」
他の将軍たちの軍隊と違い、帝都防衛を任されているリクスト将軍の軍隊は特殊だ。
リクスト将軍指揮下の兵士は約十万。
十万という将兵の数は、ひとりの将軍の軍隊としては多いが、そのうち騎士や歩兵などの数は二万五千と通常より少ない。
残る七万五千のほとんどは帝都の治安を守る憲兵隊で構成されているが、星華が皇区で見つけた隠密部隊や魔法結界を張る結界部隊、その他いくつかの特殊部隊もリクスト将軍の麾下に配属されていた。
それぞれの部隊には指揮官クラスがいるのだが、それらをまとめ上げているのが、副将であるリーブであった。
ちなみに、皇区のさらに奥にある皇宮の区域だけはリクスト将軍も手が出せない。
皇宮は皇族直属の部隊が皇族を守っているからだ。
「ここは私に任せて、リクスト将軍もパーティーに参加されてはどうですか?」
物腰柔らかくリーブ副将は提案する。
自分の子供ぐらいの年齢の少年だが、リーブ副将はリクスト将軍を心から信頼し忠誠を誓っていた。
リーブ副将には、自分の階級をあっという間に飛び越えてしまった少年に対して、ひがみや嫉みが全くなかった。
それに軍隊とは年齢ではなく実力社会だ。長年、軍に所属して副将の地位まで昇り詰めたリーブ副将にはそのことが身に染みて分かっていた。
それに、部下に対しても丁寧に接してくれて何事にも耳を傾けてくれるリクスト将軍は上司として申し分ないのだ。
しかし、そんな最高の上司に対して、リーブ副将は一点だけ気になることがあった。
それは、リクスト将軍は十五歳なのに妙に大人びたところがある点だった。
話し方も物事の考え方も到底十五歳とは思えない。もちろん、将軍になるためには強さだけではなく、的確な判断力や迅速な対応力もなくてはならない。リクスト将軍は十五歳でそれを備えている。
だからこそ、十輝将というエースライン帝国で最高位の称号を持っているのだが。
「私はどうも、あのような騒がしい場所が苦手で」
まさにリーブ副将が危惧していることがこれであった。
普通、十五歳の少年なら美味しい料理が食べられるパーティーなどには喜んで参加するはずだ。騒いで遊びたいと思うはずだ。
自分が十五歳の時を思い出すと、馬鹿げたことやくだらないことばかりで、いつも親に怒られていたものだ。
だが、リクスト将軍にはそんな無邪気な少年らしさがない。
部下に気を遣ってくれることはとても嬉しいことだ。しかし、もっと少年らしく弾けて欲しいという願いもあるのだが……リーブ副将は内心で苦笑した。
まぁ、人の性格など千差万別だ。
それに、こんな素晴らしい上司の下で働けるのは最高の幸せではないか。
「会場から持ってきてしまいました」
リーブ副将の後ろには数人の部下が控えていた。彼らの両手にはいくつもの料理が皿に乗っている。
「せっかくなので食べましょう」
リーブ副将が悪戯好きの少年のように無邪気に笑う。
それを見て、本当の少年も笑った。
「ちょうどお腹が空いていました。ありがとうございます」
二人は乾杯をして、束の間の休息を楽しんだ。




