第七十三話 腹立たしい後継者
夜に始まったシャスターの歓迎と将軍たちの戦勝祝賀を合わせたパーティーはかなり豪勢なものだった。
昼間、将軍たちが挨拶した謁見の間よりもさらに大きな会場には三百人以上の人々が集まっていた。
パーティーは立食形式で、あちらこちらで食事をしたり談笑を楽しんでいる人々がいる。
各将軍たちの周りにも戦いの話を聞こうと多くの者が取り囲んでいた。しかし、そんな将軍たちと比べ物にならない程、人垣ができている人物がいた。
シャスターだ。
元々主賓だから取り巻きは多いのは当然であったが、目の色を変えた十数人の女性たちが取り囲んでいるのは少し異様な光景だった。
シャスターはカリンから見ても美少年だ。金色に輝く美しい髪にルビーのような紅い目が見る者に強烈に印象付ける。
さらに伝説のイオ魔法学院の正統なる後継者であり、その実力は一般的な魔法使いを桁違いに凌駕する。
そんな神が二物も三物も与えてしまった少年がパーティー会場にいるのだ。帝国の令嬢たちが放っておくはずがなかった。
「シャスター様のお好きな女性のタイプはどのような方ですか?」
「そうですね、特にこの方というのはありません、私が気に入った方がタイプですね」
「魔法使い様なら、やはり知的な方がお好みかしら?」
「皆さんなら、教養もあるでしょうし、十分に知的で魅力的だと思いますよ」
「シャスター様の魔法が見てみたいですわ」
「構いませんよ。ただ、この皇区全てが灰になっても宜しければ」
「きゃー」と歓喜に似た悲鳴がいくつも上がり、その後楽しげな笑い声に変わる。
さすがシャスターだ。しっかりと社交術も身に付けている。
しかし、それがカリンにとっては腹立たしい。普段から自分にも令嬢たちのように気遣ってくれればよいのにと思うのだが。
「いや、駄目ね。私の方が歯痒くなってしまいそう」
ため息をつきながらカリンはグラスだけ持って隅の長椅子に座っていた。
話し相手もいないのでひとり物思いに耽りながら、懐かしい光景を思い出している。
初めてシャスターに会った日の夜だ。
その日、フェルドの町ではささやかなシャスターの歓迎会があり、その時も町娘たちがシャスターの周りを囲んでいたのだ。笑い合っている人々の姿が、今でもカリンの脳裏には鮮明に映っていた。
しかし、あの時のフェルドの人々はもう誰もいないのだ。
「隣の席、よろしいかな?」
突然の声で物思いに耽っていたカリンは驚いた。
しかも、その声の人物を見てさらに驚く。
「エ、エーレヴィン皇子殿下!!」
カリンは口を大きく開けたまま、固まってしまった。




