第七十話 十輝将たちの団欒3 &(登場人物紹介)
リクスト将軍は考えても理由が分からない。
そもそも、ザン将軍とエルシーネ皇女、そしてシャスター様がいるのであれば、ザン将軍がアイヤール王国へ向かうのは良いとして、あとはエルシーネ皇女がゴブリン・ロードの本拠地へ向かえば済むことだ。
そして、シャスター様にはそのままシャイドラに留まってもらい、ゴブリン軍が侵攻してきた場合に手助けしてもらう。
これが一番効率の良い作戦のはずだ。
それなのに、なぜわざわざイオ魔法学院の後継者をエルシーネ皇女と一緒にゴブリン・ロードの本拠地に向かわせたのか。
「理由は、部外者であるイオの後継者様をこの事件に巻き込むためだ。ねぇ、ザン将軍?」
「巻き込むとは言い方が良くないな。当事者になってもらうためだ」
ザン将軍が素っ気なく答える。
今回の事件に関わることによって、シャスターは魔物の王化の真相解明に否応なく参加させられてしまったということだ。
「そんな! シャスター様を騙したということですか? 氷の棺の少女を使って」
「それは違うぞ、リクスト将軍」
呆れ顔のリクスト将軍にザン将軍が真面目な表情をする。
「シャスター様は、我々の考えを全て分かった上で了承したのだ。無論、レーシング王国で氷の棺に入っている少女を助ける情報を得るためでもあろうが」
「つまり、シャスター様の気持ちを利用したということですか?」
「そう直線的に言われると身も蓋もないが、それも含めてシャスター様は全て分かっていたのだ」
本当は同行者のカリンが啖呵を切ってしまい、シャスターは受けざるを得なくなってしまったのだが、それをザン将軍はわざわざ話さなかった。
また、リクスト将軍への説明がややこしくなるからだ。
「分かりました」
まだ釈然としていない少年だったが、それがシャスターを味方に入れる為の高度な戦略だったのなら、エースライン帝国の将軍として従わなくてはならないことは十分に承知していた。
「今頃、真相を確かめるべく、エーレヴィン皇子殿下に詳細を聞いているだろう。そして今後についても話し合っているはずだ。『帝国の宰相』と『五芒星の後継者』、天才同士が話し合っているのだ、俺たちが気を揉む必要はないさ」
笑いながら新しいワインボトルを開けたアルレート将軍がグラスにワインを注ぐ。
その姿を見ながら小さくため息をついたリクスト将軍は、自分のグラスに注がれているアップルジュースを一気に飲み干した。
第四章「魔物の王」編
これまでの主要な登場人物
シャスター
伝説の魔法学院、火炎系魔法の最高峰であるイオ魔法学院の後継者であり、「五芒星の後継者」のひとり。
アイヤール王国からエースライン帝国に向かっていたが、国境都市シャイドラにてエルシーネ皇女とザン将軍から半ば強引に頼まれ、ゴブリン軍を討伐を手伝った。
その後、エースライン帝国の皇帝からの帝都エースヒルへの招待を受けて、エルシーネ皇女、ザン将軍と共に帝都に赴いた。
魂眠に陥ってしまったフローレを治す方法をエースライン帝国で見つけようとしている。
カリン
神聖魔法の使い手。
魂眠に陥ったフローレを治す方法を探す為、シャスターと共に旅に出た。
神官レベルが一気に三十五に上がり、ファルス十二神全ての神との契約者となってしまった為、シャード皇帝からはファルス神教の祝福者と呼ばれた。
十二神全てと契約した者は広大なアスト大陸でも、カリンたった一人しかおらず、さらにファルス神教で異端神扱いの冥界神デーメルンとも契約ができてしまった為、今後のカリンの神官としての潜在能力は未知数。
星華
シャスターの守護者。
稀有な職業「忍者」、その中でも上忍しか名乗ることが許されない「くノ一」の称号を持つ。
エルシーネ
七大雄国の一角、エースライン帝国の第二皇女であり、帝国の有するペガサス騎士団の騎士団長、そしてエースライン帝国が誇る十輝将のひとり。
シャスターとは以前からの知り合い。
シャスターと共に、ゴブリン・ロードの本拠地に向かうが、それ自体がゴブリン・ロードの陽動であり、さらに兄エーレヴィンの策略に乗せられたことを知り憤慨する。
ザン将軍
エースライン帝国、南東部の国境都市シャイドラの統治者であり、辺り一帯を守護している。
帝国が誇る十輝将のひとり。
軍を率いてアイヤール王国へと向かい、ゴブリン軍を殲滅させた。
その後、シャスターたちと共に帝都に赴いた。
アルレート将軍
エースライン帝国が誇る十輝将のひとりで、帝国の東部を守護している。
戦術を駆使するのが得意であり、五万ものゴブリンの大軍も殲滅させ、彼自身はゴブリン・ロードを圧倒的な力の差で倒した。
リクスト将軍
弱冠十四歳にして十輝将となり、百五十万人を抱える帝都エースヒル防衛の最高責任者。現在、十五歳。
歳に似合わず、思慮深さを持つ少年。
将軍になる前はアルレート将軍下で副将を務めていた。
エルーミ将軍
十輝将のひとり。
容姿や振る舞いは華麗な貴婦人にしか見えないが、槍の使い手として帝国内に彼女の右に出る者はいない。
帝国西部の国境に広がるベルナ湿地帯の一帯を守護している。
三匹の魔物の王の一匹、コボルト・ロードを倒した。
ヒューズ将軍
十輝将のひとり。
見た目は大人しそうな青年だが、得意とする細長い長刀はその長身と相まって凄まじい威力を繰り出す。
帝国の南部を東西に走るゲンマーク山脈一帯を守護している。
三匹の魔物の王の一匹、オーク・ロードを倒した。
エーレヴィン
エースライン帝国宰相。
また、シャード皇帝の皇子であり、エルシーネの兄。
戦略の天才であり、今回のゴブリン・ロードのフェルノン山脈北からの帝国侵攻も読んでいた。
そのため、エルシーネたちを陽動に使ったのだが、それがエルシーネを憤慨させている。
シャスターとは仲が良い。
シャード皇帝
エースライン帝国の皇帝であり、エーレヴィン、エルシーネの父である。
百数十の国々がある広大なアスト大陸において、七大雄国の一角であるエースライン帝国、その皇帝として絶大な権力を持っている。




