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第六十八話 十輝将たちの団欒1

「凱旋パレードは卿らのためのものだったのだな」


 ザン将軍は苦笑した。

 彼は皇区の一角にある高級士官用のラウンジにいた。

 他にアルレート将軍、ヒューズ将軍、エルーミ将軍、そしてリクスト将軍がいた。

 彼らは情報交換のために集まっていたのだ。帝国中に散っている将軍たちがこうやって集まる機会はなかなかないからだ。


「いやいや、あれはザン将軍たちの凱旋パレードです。俺たちはエーレヴィン皇子殿下から内密に帝都に来るように言われていたのですよ」


「……なるほど」


 アルレート将軍の話を聞いて、ザン将軍はエーレヴィン皇子の意図を理解した。

 ザン将軍だけではなく、他の三人までもが防衛拠点を離れていることを公にするのは今の状況下では避けたほうが良いからだ。



「今回の件、どう思う? アルレート将軍」


 ザン将軍がワインを飲みながら尋ねる。


「どうと言われてもね。何かあるとしか言いようがないでしょう」


 アルレート将軍が苦笑混じりに答える。

 この五人の中ではザン将軍に次いで年齢が高く、将軍歴も長いアルレート将軍にザン将軍は話を振ったのだが、アルレート将軍にも今回の件は全く分からない。

 ただ、エーレヴィン皇子が言うとおり、黒幕がいるのは確実だ。



「黒幕はかなり力のある者ということでしょうか?」


 最年少のリクスト将軍が少しだけ硬い表情で質問をする。彼にとっては将軍になって初めての異常事態だ。他の将軍たちよりも緊張の度合いが高いのは当然だった。


「力があるのは確かでしょうね。同時に三匹の魔物を(ロード)化させたのだから」


 エルーミ将軍が脚を組み直しながらワイングラスに口をつける。その優雅な動きだけを見れば、華麗な貴婦人にしか見えないが、槍の使い手として帝国内に彼女の右に出る者はいない。

 エルーミ将軍は、帝国西部の国境に広がるベルナ湿地帯の一帯を守護している。ベルナ湿地帯は広大な面積を有しており、そこには様々な魔物が生息していて、常に魔物との戦いが行われている場所であった。

 そんなベルナ湿地帯を二十代にして十輝将として守護している彼女が、(ロード)化した三匹の魔物の一匹、コボルト・ロードを倒したのだ。

 その戦闘能力の高さは計り知れない。



「そもそも魔物の(ロード)化なんて強制的にできるのだろうか?」


 最後に口を開いたのはヒューズ将軍だった。

 彼の得意とする細長い長刀はその長身と相まって凄まじい威力を繰り出すのだが、ラウンジでくつろいでいる姿は大人しそうな好青年という印象だ。

 しかし、彼もまた十輝将の一人として、帝国の南部を東西に走るゲンマーク山脈一帯を守護していた。

 ゲンマーク山脈の南側はレーシング王国、死者の森、そしてアイヤール王国となる。そんな広大な地帯を守護しているのがヒューズ将軍であり、今回出現したオーク・ロードも一刀両断したのだ。



 そんなエルーミ将軍とヒューズ将軍、そして最年少のリクスト将軍を含めたここにいる五人の中で、「将軍らしく」見えるのはせいぜいザン将軍ぐらいだろうか。

 しかし、当然ながら全員が突出した実力の持ち主だった。



「魔物の(ロード)化が可能だからこそ、同時に三匹も現れたのだ。魔物の王(モンスター・ロード)をつくる秘術なり禁術があるのかもしれんな」


 ザン将軍の意見に全員が頷く。

 確かに帝国の将軍といえども、この世界で知らないことが数え切れないほどあるのだ。



「それでもやはり疑問点があります」


 リクスト将軍が話を投げかける。


「魔物の(ロード)化は脅威です。一個体の魔物の力を何百倍にもし、さらに何万もの同属を束ねる統制力と智力を持つ魔物の王(モンスター・ロード)に変えるからです。十五年前のアイヤール王国のように小国であれば大きな打撃を受けてしまうでしょう。ただし、ここはエースライン帝国です。私が言うのも変ですが、他に類を見ないほどの強国です。実際、三匹の魔物の王(モンスター・ロード)は三人の将軍によって討伐されました。しかし、だからこそ解せないのです」


 リクスト将軍は皆の顔を見渡した。


「黒幕はエースライン帝国の戦力を知らなかったのでしょうか? 本当に三匹の魔物の王(モンスター・ロード)の大軍程度で、帝国を倒せると思っていたのでしょうか? もしそうであれば、我々の実力を見誤っている黒幕は全く脅威ではありません。しかし、そうでなければ……」


「さすが、俺の愛弟子だ!」


 隣に座っているアルレート将軍が嬉しそうにリクストの背中を叩いた。

 しかし、叩かれた当人は不本意そうな表情だ。


「その愛弟子という言い方はやめてください」


「事実だろう?」


 リクスト将軍は軍に入隊後ずっとアルレート将軍の軍隊に在籍していた。将軍に就く前は副将としてアルレート将軍を補佐してきたのだ。

 それであれば、確かに愛弟子と言えるのだが。



「いいえ、あなたに教わったことは何一つありません」


 十五歳の少年にきっぱりと否定されてしまい、倍以上も歳が離れている青年はショックを受けたようだった。


「そんな言い方はないんじゃ……」


「自業自得なんじゃないの? リクストが副将の間、あなたは全ての仕事をリクストに押しつけて遊び呆けていたのだから」


「そ、それは、リクストに早く成長して欲しかったからだ」


「その時、リクストはまだ十三歳。いくら神童と呼ばれていたとはいえ、幼い子供に軍の全てを任せていたなんて……アルレート、あなたの人間性を疑いますよ」


 エルーミ将軍とヒューズ将軍から冷たい視線を浴びて、さすがのアルレート将軍もたじろいだ。


「まあまあ、二人ともそのくらいでいいだろう。アルレート将軍が慧眼だったからこそ、リクスト将軍の才能を発掘することができたのだ」


 ザン将軍が笑いながら二人を諭す。

 無論二人も本気ではなく冗談で問い詰めていたのだ。それにリクスト将軍も本当にアルレート将軍を嫌っているわけではない。

 少し嫌味言って、エルーミ将軍とヒューズ将軍の二人にお灸をすえてもらえたので充分だった。



 束の間、穏やかな空気が流れた。


皆さま、いつも読んで頂き、ありがとうございます!


今回は十輝将がのんびりとラウンジで語り合う回となりました。(まだ数話続きますが)

十輝将のうち、エルシーネを除く五人が帝都にいます。

将軍たちは任地があり、なかなか会うことがない為、久しぶりに会えて会話を楽しんでいる様子です。


それでは、これからも「五芒星の後継者」をよろしくお願いします!

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