第六十七話 三つの重なる糸の先
「まずはここにゴブリン・ロードが現れた」
フェルノン山脈の中心付近に赤い点が点滅した。
ゴブリン・ロードの本拠地だ。さらにそこから南下する矢印が現れた
「ゴブリンたちは十五年前と同様アイヤール王国へ侵攻してきた。しかし、それは陽動であり、別部隊がシャイドラへ侵攻してきたのだ」
今度は本拠地から南西のシャイドラへ矢印が現れる。
「いち早くそのことに気付いたエルシーネたちは少数精鋭で逆に敵の本拠地に乗り込んだのだが、そこにゴブリン・ロードはいなかった」
「まんまと騙されたのさ」
シャスターが苦笑いをする。
「仕方があるまい。シャイドラ侵攻さえ陽動だったとは、まさかゴブリン・ロードがここまで知恵があるとは誰も思わない。ザン将軍も気付けなかったのだ、他の将軍たちでも無理だったはずだ」
エーレヴィンも苦笑したが、裏を返せばエーレヴィンだけは気付いていたということだ。
エーレヴィンには直属の諜報部隊が存在するらしいが、その情報量と彼の分析力が結合した結果だった。
「私はもう一つの可能性、つまりアイヤール王国侵攻とシャイドラ侵攻以外に、ゴブリン軍がフェルノン山脈を北上して帝国東部のザール平原侵攻することを考慮しておいただけだ」
「抜かりない。さすが帝国内一の天才戦略家だね」
「イオの後継者に褒められるとは照れるな」
「そんな自慢話はどうでも良いから、さっさと話を進めてもらえませんか? 宰相閣下」
嫌味たっぷりに口を開いたエルシーネにエーレヴィンは軽く笑う。
「そうだな。ゴブリン・ロードの話は大して活躍できなかったお前には酷だからな」
「なっ!」
「さて話を戻すと、フェルノン山脈に現れたゴブリン・ロード本隊は山脈北からザール平原へと侵攻してきたが、先ほど皇帝陛下が話されたとおり、時を同じくしてオーク・ロードとコボルト・ロードも現れ帝国に侵攻してきたのだ」
エーレヴィンは再び天井を見上げた。
「オーク・ロードは帝国の南部にそびえるゲンマーク山脈、コボルト・ロードは帝国西部に広がるベルナ湿地帯だ」
天井の地図の二箇所に丸い点が現れて点滅する。さらに点から帝都に向かい矢印が現れた。
「オーク軍とコボルト軍はそれぞれが約五万の軍隊だったが、ゴブリン軍のように陽動はなかった。そのためゲンマーク山脈一帯を守護するヒューズ将軍とベルナ湿地帯を含む帝国西部を守護するエルーミ将軍だけで対処できた」
帝都に侵攻を示す三つの矢印にバツが付く。
しかし、これで魔物の王の大軍は倒されて全てが終わった、と思っている者はここにはいない。
「魔物の王化は自然発生的なもので百年に一度程度は起こる。仮にそれが二つ重なることは偶然としてはありえるだろう。しかし、三つ重なるとなるとそれはもはや偶然ではない。何者かが裏で糸を引いているということだ」
「一体何者が?」
「まだ確定的なことは分からない」
エルシーネの問いにエーレヴィンは頭を横に振った。
「ということは、第四、第五の魔物の王が現れる可能性もあるということですね」
「その通りだ、ザン将軍」
ここで地図が消えた。
「そこでだ、ザン将軍、アルレート将軍、ヒューズ将軍、エルーミ将軍は至急各拠点に戻り、周辺の情報収集に当たって欲しい。リクスト将軍は帝都の守りの強化を、エルシーネ将軍は遊撃隊としていつでも動ける準備を。他の将軍には私から伝えておく。それでは各将軍頼む」
「はっ!」
将軍たちはシャード皇帝とエーレヴィンに対して一斉に頭を下げた。
「とはいえ、久しぶりに多くの十輝将が揃ったのだ。積もる話もあるだろう。今日は帝都でゆっくりと過ごすが良い。今夜は祝賀会を開く」
シャード皇帝の言葉に将軍たちはさらに深く頭を下げて、その場は解散となった。
皆さま、いつも読んで頂き、ありがとうございます!
今回エーレヴィンが説明したゴブリン軍の動きをMAPに載せました。
陽動部隊の方しか載せられませんでしたが、ザン将軍やシャスターたちの動きが分かるかと思います。
(エースライン帝国が広すぎて、全体を載せてしまうと、かなり進行経路が小さくなってしまう為、申し訳ありません)
「五芒星の後継者」は、これでやっと本題に入ろうとする感じです。
まだまだ長編になりますが、これからもよろしくお願いします!




