第六十六話 宰相と後継者
慌ただしく謁見の間を出ていく大勢の臣下を見ながら、シャスターは感心する。
「すぐに動き出すとは。あいかわらずエースライン帝国の官僚たちは優秀だよね」
「当然だと思うが。それよりもまずはシャスター、久しぶりだな」
エーレヴィンが手を差し出す。
先ほどは公の場ということでシャード皇帝だけがシャスターと挨拶をしたので、エーレヴィンは改めて挨拶をしたのだ。
「エースライン帝国に来るなり、こき使われたけど」
苦笑しながらもシャスターも握手をした。
「申し訳ない。だが、猪突猛進の妹を止められるのはシャスターだけだと思ったのでな」
顔を膨らませて怒っているエルシーネをよそに涼しげな表情でエーレヴィンは笑う。
それを見てエルシーネはさらにヒートアップした。
「兄上! 今日こそは言わせてもら……」
「待て、エルシーネ。痴話喧嘩はあとだ」
エルシーネの文句を軽くあしらったエーレヴィンはシャード皇帝に向けて頭を下げた。
「皇帝陛下、此度の一連の詳細を皆に話してもよろしいでしょうか?」
すでに謁見の間には皇帝とエーレヴィン、エルシーネ、そしてザン将軍、リクスト将軍、アルレート将軍、ヒューズ将軍、エルーミ将軍しかいない。
この場で機密情報を隠す必要はないのだが、律儀にもエーレヴィンは父であるシャード皇帝に伺いを立てる。
「エルシーネを始め将軍たちも今回の件に関しては詳しく知らされていない。ここで情報共有しておくのが良いだろう」
「分かりました」
皇帝の了解を得られると、エーレヴィンが手を上げてゆっくりと天井に向かって振る。すると、天井を覆い尽くすほどの大きな地図の映像が現れた。
地図の出現に驚いたカリンだったが、他は誰も驚いてはいない。おそらくは映像を映すマジックアイテムなのだろう。
地図はエースライン帝国とその周辺国を描いていた。カリンの住んでいたレーシング王国もある。
その大きな地図を見ながら、エーレヴィンは説明を始めた。




