第六十五話 三匹のロード
アルレート将軍、ヒューズ将軍、エルーミ将軍の三人は謁見の間の入口から赤い絨毯の上を歩くと、シャード皇帝の前で片膝をついて頭を下げる。
「三人ともご苦労だった」
シャード皇帝は三人に労いの言葉をかけると、椅子から立ち上がり改めて謁見の間にいる大勢の臣下の者たちを見渡した。
「最近、エースライン帝国付近において魔物の王が発生した。むろん、魔物の王化は今までも自然発生的に何度か起きている。新しいところだと十五年前、アイヤール王国を襲ったゴブリン・ロードだが、今回も再びゴブリン・ロードが襲ってきたのだ。しかし、ここにいるアルレート将軍が見事に討伐してくれた」
皇帝が言葉を切ると、臣下たちから歓喜が起きる。
さらに天井にマジックアイテムでアルレート将軍がゴブリン・ロードと戦っている勇姿が映し出されると、さらに謁見の間は大きな拍手に包まれた。
アルレート将軍は気さくに軽く手を振っているが、反対にエルシーネは顔をしかめている。
「しかし、話はこれだけでは済まない」
映像が止まり、シャード皇帝の話は続く。重い声に再び静寂が訪れた。
「時を同じくして、ゴブリン・ロードの他にオーク・ロードとコボルト・ロードが現れたのだ」
今度はざわめきが起きた。三体の魔物の王が同時に現れたことが信じられないからだ。
ざわめきはしばらく続き、臣下たちの顔がこわばっているのがカリンの場所からも良く見えた。
カリンはこの話をザン将軍に最初に会った時に聞いていたので驚くことはなかったが、初めて聞いた者たちにとってはかなりの衝撃に違いない。
災害といわれる魔物の王はそれだけで小国を滅ぼすといわれているのに、それが同時に三体ともなると、それはもはや……。
「偶然ではないということだ」
シャード皇帝の横に控えているエーレヴィンが断言し、皇帝も頷く。
「幸いにもオーク・ロード、コボルト・ロードともに、ここにいるヒューズ将軍とエルーミ将軍が倒してくれた。二人の功績は大きい。感謝する」
再び謁見の間は拍手に包まれたが、先ほどのアルレート将軍とは違い、緊張感が漂っている。
「今回は三人の将軍の活躍によって事なきを得たが、これが偶然ではなく意図的に行われているのであれば、次の第二波が必ず来る」
エーレヴィンの言葉に一同静まり返る。
しかし、さすがエースライン帝国の廷臣たちであった。先ほどの驚愕からは立ち直りすでに第二波に向けての対応策を考え始めていたのだ。
エーレヴィンの言葉の真意が分からない無能者はここにはいない。魔物の王出現が三体同時となると、明らかに何者かが裏で糸を引いているということだ。
「皆の者に期待するところ大である。以上!」
皇帝の言葉に臣下たちは一斉に頭を下げて謁見の間から出ていった。
各部署で今後の対応を考えるためだ。
あれほど大勢の人々がいた謁見の間だったが、一気に人がいなくなったことで、カリンは謁見の間をさらに広く感じていた。




