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第六十二話 皇帝と後継者

「何事か!?」


 リクスト将軍が大声で叫ぶ。


 白い煙はすぐに消えたが、謁見の間にいた大勢の人々の表情が異常をきたしていた。皆が虚な状態になっているのだ。

 すかさずリクスト将軍がシャード皇帝の前に立ち、帯刀している剣を星華に対して抜こうとしたが、皇帝が片手で制す。


「落ち着け、リクスト将軍。何も心配することはない。そうだろう、守護者(ガーディアン)?」


「夢見草という幻覚を見せる薬草を煎じたものを散布しました。ここにおられる方々は少し前からの記憶が曖昧になるので、私の正体も忘れるはずです。すぐに元の状態に戻りますし、副作用もありません」


 星華は平然と答えるが、行った行為はどう言い逃れしようとも大逆罪であり極刑ものだ。

 リクスト将軍は抜刀こそしていないが、戦闘態勢を崩していない。

 しかし、シャード皇帝は全く動じることなく、リクスト将軍に声を掛ける。


「余の失態なのだ、仕方があるまい。リクスト将軍、分かってくれるな?」


 シャード皇帝は謁見の間にいる大勢の前で星華の正体を忍者マスターである「くノ一」と明かしてしまった。

 それに対して、星華は人々の記憶を消したということだ。


 そのことを瞬時に理解したリクスト将軍は渋々ではあるが納得せざるを得なかった。


「……御意」


 リクスト将軍は戦闘態勢を解くと、皇帝に一礼をし元の場所に戻った。



「他の者たちもだ」


「はっ!」


 将軍たちをはじめ、大臣クラスなどの精神力が強い者たちには夢見草の効果が効かなかったようだ。しかし、その人数も広間にいる大勢の中のわずか十数人程度だ。



 そうこう話しているうちに、多くの臣下たちが正常に戻ってきた。

 多くの者が頭を軽く振ったりして何が起きたのか分からないでいるが、さすがはエースライン帝国の臣下だ。すぐに混乱が静まる。



「さて、守護者(ガーディアン)よ」


 シャード皇帝が何事もなかったかのように平然と星華に尋ねる。


「確か前回は帝都特区の突破がやっとだったと思うが、この二年でかなり腕を上げたようだな」


「次回までには皇宮も侵入できるよう努めてまいります」


「はははは。それは良い。期待しているぞ」


 とんでもない発言を顔色一つ変えることなく堂々と話した星華も星華だが、それを笑って許容しているシャード皇帝の度量の広さにカリンは呆気に取られた。


 先ほどの夢見草の件といい、普通ならその場で即刻殺されるレベルの出来事だ。

 つまりはエースライン帝国といえども、それほどまでにシャスターの存在は特別なのだ。

 そして、その時やっとカリンは気付いた。


 シャスターが皇帝の前でも膝を折らなかった理由を。



 イオ魔法学院の後継者のシャスターとエースライン帝国のシャード皇帝は立場上、同格なのだ。だからこそ、シャスターは皇帝の前でも立ったままなのだ。

 シャスターが傲慢でも生意気な訳でもなく、立場上同格の皇帝の前では膝を折ってはならなかったのだ。

 もちろん、巨大なエースライン帝国をまとめ上げ、アスト大陸の頂点に立っているシャード皇帝に対して敬意は払っているようだが。

 皇帝の前でも膝を折らない非礼な態度、そのことを周りの人々が何も言わない理由がやっとカリンにも分かった。



 そんなことを考えていたカリンだったが、いつの間にか皇帝の視線が自分に向けられていることには気が付かなかったらしい。


「そして、例の少女か……」


 突然自分が呼ばれたことに、カリンは驚き慌てた。


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