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第六十一話 皇帝との謁見

 ここはきっと謁見の間だ。


 おそらく、皇区の門にはマジックアイテムが備わっていて、瞬間移動の魔法でこの場に飛ばされたのだろう。


 ふと横を見ると、エルシーネ、ザン将軍、リクスト将軍、それに星華までもが片膝をついて頭を下げている。カリンも慌てて、それに倣った。


 唯一、シャスターだけが立ったままだ。



「ちょ、ちょっと、シャスター、失礼よ! 早く座りなさい!」


 相手は広大なアスト大陸の一角を担う、百数十もの国々の頂点に立つ人物の一人だ。そんな高貴な人物を前に立ったままだなんて、不遜もいいところだ。

 カリンは何度も小声でシャスターを注意するが、シャスターは一向に気にもしない。それどころか、皇帝に向かって足を進める。


「シャスター!」


 カリンは離れていくシャスターに向かって少しだけ声を上げたが、ちょうど音楽が止まったタイミングだったため、意外と大きく声が謁見の広間に反響してしまった。


「も、申し訳ございません!!」


 慌てたカリンが顔中に汗をかきながら頭を下げる。

 皇帝の前で声を上げてしまったことが不敬罪だと思ったからだ。そのまま死刑だって有り得るだろう。

 しかし、そんなカリンに温和そうな声が届く。


「気にすることはない」


 その声を聞いて、カリンは思わず顔を上げた。

 その声は目の前から聞こえたからだ。


 そして、カリンは唖然とした。


 声の主は皇帝だったからだ。

 威風堂々とした姿とは裏腹に、とても優しそうな口調だった。

 ますますカリンは深く頭を下げた。そんなカリンを見ながら皇帝はシャスターに笑いかけた。



「久しぶりだな、イオの後継者殿」


「シャード皇帝陛下もお変わりないようで」


「貴公が最後にここを旅立ってからまだ二年程度だ、変りようもあるまい」


 シャード皇帝はもう一度笑うと椅子から立ち上がってシャスターの前まで来ると肩を叩いた。


「いや、二年で貴公は随分と成長したようだな。前回まではイオの御老体と一緒に来ていたのだが」


「修行の旅を命じられましてね。まだ始まったばかりですが」


「そうか。いよいよ最後の集大成だな」



 再び椅子に戻ったシャード皇帝が今度は他の者にも声をかける。


「シャスター殿の守護者(ガーディアン)も息災か。今回はどこまで帝都に侵入出来そうか?」


「市民区、特区は問題なく。皇区も入れそうですが、皇宮はまだ難しいかと」


 室内から軽いざわめきがしばらく続いた。

 星華の発言は、アスト大陸最高峰の防御を誇る帝都エースヒルのセキュリティーを軽々と突破出来ることを意味していたからだ。

 帝都防衛の総責任者であるリクスト将軍の表情が青くなるのは当然だった。


 しかし、それもまたシャード皇帝は笑い飛ばす。


「リクスト将軍、気にすることはない。この者は最強職位の一つである忍者、その中でも最高位のグランドマスター『くノ一』なのだからな」


 再びざわめき起きるが、今度は驚嘆の意味合いが強い。こんなにも若い少女が希少な忍者職、しかもグランドマスターだとは驚く以外にないからだ。


「皇帝陛下、僭越ながら私のことは……」


「おぉ、そうだった。隠密であるそなたの正体をこのような大勢いる公の場で話すのはまずかったな。すまなかった」


「いえ、すぐに対策を打てば問題ありません」


 すると、星華の手から幾つもの小さな球が放たれたかと思うと、天井ではじけて割れた。

 直後、広間が白い煙で全て覆われてしまった。


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