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第六十話 皇区へ

 六人は皇区の門の前に着いた。


 カリンは首を最大限に反りながら嘆息する。文字通り、皇区の中にある皇宮が天高くそびえているからだ。


「ここ皇区はエースライン帝国の心臓部です。ここには各省庁を始め様々な機関が入っています」


 リクスト将軍の説明では皇区も円形状になっていて、その外壁の長さだけでも約六キロメートルもあるとのことだった。そんな皇区内にはさまざまな建物が建っている。それぞれが行政機関などの主要施設となっていて、五千人もの人々が働いているとのことだった。


 さらに皇区の中央には高くそびえる塔、皇宮がある。



「さぁ、カリンちゃん、入りましょう!」


 皇区の入口である門の前には特区のさらに数倍もの兵が警備していて彼らに最敬礼をしているが、人目を気にしない様子でエルシーネははしゃいだ。


「私の部屋は皇宮の最上階で全面パノラマビューの絶景なの! この間戦ったフェルノン山脈も遠くに見えるわよ。あとでカリンちゃんにも見せてあげるね」


「あっ、は、はい。ありがとうございます!」


「エルシーネ皇女殿下、その前におやりになることが……」


「分かっているわよ、リクスト将軍」


 急にエルシーネの機嫌が悪くなった。

 理由は分からないが、これから行われることがエルシーネにとって嫌なことだということがその態度でカリンにもよくわかる。

 しかし、リクスト将軍は敢えてエルシーネを不機嫌な態度を無視をする。



「それでは、行きましょう」


 リクスト将軍の掛け声に合わせるかのように、皇区へと繋がる防壁の大きな門がゆっくりと開いた。

 馬を降りて衛兵に預けた後、六人は門の中に一歩足を踏み出した。



 次の瞬間。



「イオ魔法学院の後継者であらせられます、シャスター・イオ様。ご入場!」


 突然、カリンの耳に優雅で美しい音楽が響き渡り、それに負けないくらい良く通る男性の声が響いた。


 さらに、突然起きたことは聴覚だけではなかった。

 目に見える光景、視覚までもが突然に変わってしまったのだ。



「えっ、えっ、ど、どういうこと!?」


 カリンが慌てふためくのも無理はない。

 先ほどまで皇区に繋がる門の前にいたのに、今カリンはあまりにも巨大過ぎる、そして豪華な広間にいるからだ。


 どうやら自分たちは大きな広間の中央にいるらしい。

 カリンは金の刺繍をあしらった赤い絨毯の上に立っていた。その絨毯は長く延びていて、絨毯の左右には立派な服装をした数百人の大勢の人々が立っている。



「何なの、ここは……あっ!」


 カリンは視線を動かした先にいる人物を見て、全てを悟った。


 長く延びた絨毯の先には椅子に座っている一人の初老の男性がいたからだ。

 しかも、ただの老人でないことは一目瞭然だった。


 見るからに威厳を感じ威圧感を放っている、威風堂々を形にしたような、そこにいるだけでその場を圧してしまう存在感を持った人物。



(あの人がきっと、エースライン帝国の皇帝だ……)


 カリンは確信を持って心の中で頷いた。




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