第五十八話 凱旋
広大過ぎる帝都エースヒルの街並みもまた広大だった。
彼らが歩いている道は馬車が横並びに二十台並んでも余裕があるほどに広い。そして沿道には多くの住民たちが繰り出していた。
「エルシーネ様!」
「ザン将軍、バンザイ!」
通り沿いの人々が二人に対して勝利を讃えていた。二人もまた笑顔で人々に手を振っている。
まさに凱旋パレードだ。
シャスターとカリンは身分を隠すため、ザン将軍の部下たちに紛れていた。星華はシャスターの影の中に入っている。
「やはり、十輝将の中でも特に人気の高いお二人への声援は凄いですね」
「お前も、じきにこうなるさ」
「あなたならザン将軍の人気と実力なんてすぐに抜けるわよ。でもまぁ、私は無理でしょうけど」
「精進します!」
いたって真面目なリクスト将軍にカリンはクスッと笑った。
三人の将軍だけでもこんなにも人柄が違うが、共通していることはそれぞれが魅力的な人物なのだ。
さすがは帝国の十輝将なのだろう。
カリンは他の将軍たちについても興味が沸いてきた。
それから一行は二時間ほど凱旋パレードの通りを馬で進んでいたが、徐々に視界から街並みが消え、代わりに目の前に大きく広がる壁が現れた。
「着きました」
リクスト将軍が立ち止まる。
「ここが王宮ですか?」
カリンが目の前に広がる壁を見上げた。壁は左右に広がっていて先が見えない。
「いえ、ここはまだ王宮ではありません」
リクスト将軍が説明を続ける。
「この壁の向こう側は特区と呼ばれていて、貴族や高官が住んでいる場所です。簡単に言えば、円形状の帝都エースヒルは殆どが市民たちが暮らす市民区ですが、さらにその円の中央に同じく円形状に囲まれた特区があると思ってもらえれば良いと思います」
つまり、特区は特級階級の人々が住むエリアということだ。
そのため特区の入口にいる衛兵の数も桁違いだった。百人はいるだろうか。さらには騎士たちに混じって魔法使いや神官の姿も見える。
万が一入口で何があっても、すぐに対処できる陣容になっているのだ。
そんな衛兵たちから敬礼を受けながら、リクスト将軍は特区の門の中に入っていく。その後にエルシーネ、ザン将軍、シャスター、カリンが続く。
ザン将軍の部下百名はここで一旦別れることになった。
厚い防壁の入口を抜けると街が現れた。しかし、今まで通ってきた市民区とは全く違っている。
「この特区の広さは要塞都市シャイドラと同じくらいです」
リクストはカリンが道中に見てきた都市の名を挙げて分かりやすいように説明をしてくれた。
シャイドラは、レーシング王国の王都バウムよりもさらに大きかった。
特区は帝都のほんの一部に過ぎない。その特区がシャイドラと同程度の広さとは……すでにカリンの感覚も麻痺してきたようであまり驚きはなかった。
リクストたちは特区の道を馬で二列に並んで進んでいた。
市民区の大通りなら六人が横一列で並んでも有り余るほどの広さだったが、特区の道幅はそれに比べれば狭い。
多くの人々が通らないからだとリクストから説明を受けたが、確かに市民区と比べて歩いている人の数が断然に少ない。
市民区のような喧騒さはなく、とても静かな雰囲気だ。
建っている家も一軒一軒がとても大きく、中には屋敷のような豪華な家もいくつもあった。一軒一軒の家の間も広く離れていて、緑の中に家が建っている感じだ。
「さっきまでとは別世界のような風景ですね」
カリンの感想はまさに特区そのものを表している表現だった。
そんな特区の中を一行は進んで行った。




