第五十七話 最年少の十輝将
一行は帝都に八門ある大門の一つ、南東門に向かった。
いつもは旅人や商人や冒険者で混んでいる門であるが、今日に限っては一行が向かう大門だけは違った。
門の両側に千人以上もの騎士たちが長い列を作って整列していたからだ。
「エルシーネ皇女殿下、ザン将軍に敬礼!」
一糸乱れぬ体勢で敬礼している騎士たちの間を一行は悠然と進んだ。
そんな中、緊張している少女が一人いた。隣に馬を並べている少年に小声で話しかける。
「こんなにも凄いことなの?」
「十輝将の凱旋だからね。しかも二人もいるから、かなり盛大になるんじゃないかな」
「そうなんだ」
改めてエルシーネとザン将軍の凄さをまざまざと実感したカリンだった。
そんな二人が門を通り過ぎてから馬の足を止めた。
二人の目の前に一人の人物が立っていたからだ。
「エルシーネ皇女殿下、ザン将軍、ゴブリン軍の討伐お疲れ様でした!」
二人の前に現れた人物はまだ少年だった。
歳でいえば、シャスターやカリンよりもさらに若く十代前半に見える。
そんな少年が笑顔で会釈をしている。
「あの子は誰なの?」
「知らない」
シャスターも初めて見る顔だ。
無論、シャスターはエースライン帝国について詳しいわけではない。十輝将の一人であるザン将軍の名前でさえ、会った時に忘れていたほどだ。
ただ、少年とはいえエルシーネとザン将軍を出迎えているということは、それなりの人物には違いないはずなのだが。
「初めまして、シャスター・イオ様、そして星華さん、カリンさん。私はリクスト・フェンドと申します。エースライン帝国において帝都エースヒル防衛の最高責任者を拝命しております」
それで凱旋したエルシーネとザン将軍を出迎えていたのか。
と、問題はそこではない。
こんな年端も行かない子供が、百五十万人以上も暮らしている帝都防衛の最高責任者だというのか。
「リクスト将軍はこう見えて最年少の……」
「ええっー! 将軍なの!?」
驚いたカリンがザン将軍の話の途中で叫んでしまった。
慌てて口を押さえて非礼を詫びるが、表情は驚いたままだ。
さらにシャスターもカリンと同じく驚いていた。目の前の少年とザン将軍を交互に見比べる。
「ザン将軍、続きを話してくれる?」
「あはははは。さすがのシャスター様も驚きを隠せないようですな。リクスト将軍は昨年十輝将に任命されたばかりですので、シャスター様も知らないのは当然です。見てのとおりまだ若いですが、その実力は私が保証します」
「私も保証するわよ。リクスト将軍は帝国始まって以来の最年少、昨年十四歳で任命された将軍よ。それまでは私の十六歳が最年少記録だったのだけど」
エルシーネは記録を破られて少し悔しいようだ。リクスト将軍は年相応の表情で恐縮した。
「まぁ、才能に年齢は関係ないか」
「その通りよ。ただし、そんなセリフは誰もシャスターくんだけには言われたくはないでしょうけど」
シャスターもこの若さで伝説のイオ魔法学院の継承者なのだ。
周りから見れば、リクスト将軍よりもシャスターの方が稀有に映るに違いなかった。
「皆さん、立ち話もなんですし、先を進みましょう」
やんわりとした口調ながら、その場をまとめてしまったリクスト将軍の案内で、一行は王宮に向かい始めた。
皆さま、いつも読んで頂き、ありがとうございます!
今回、新しい十輝将が出てきました。
最年少のリクスト将軍です。
まだ十代半ばの若さながら、帝都エースヒルの帝都防衛責任者です。
これでエースライン帝国で将軍職に就く十人中、ペガサス騎士団のエルシーネ、帝国南東部の責任者のザン将軍、帝国東部の責任者のアルレート将軍、そして今回の帝都防衛責任者のリクスト将軍の四人となります。
彼らは今後色々と活躍していくと思いますので、皆さまこれからも「五芒星の後継者」をよろしくお願いします。




