第五十五話 閉ざされた道
カリンから全てを聞いたケーニス神官総長は、それでもまだ信じられない表情をしていた。
「カリンさん、それは本当なのですか?」
改めて問いただそうとするが、代わりに答えたのはエルシーネだった。
「本当でしょう。実際、デーメル神の像が輝いているのが何よりの証拠よ」
「……そうですよね」
ケーニス神官総長は肩を落としながら呟いた。
「残念ながらカリンさんが大神官長になれる可能性は無くなったかもしれません」
その衝撃的な発言に、カリンよりもエルシーネの方が驚く。
「それって、どういうこと?」
ファルス神教の十二神全てと契約できたということは、大神官長にますます近づいたのだ。喜ぶべきはずだ。
しかし、ケーニス神官総長は頭を横に振った。
「冥界神デーメルンと契約してしまったからです。デーメルン神はファルス神教の他の神々から忌み嫌われています。つまり、デーメルン神と契約した者が大神官長になることを他の神々が認めるはずがないのです」
そんなに嫌われているのなら、そもそもファルスの神々がデーメルン神を十二神から降格させるなり、追放するなりすれば良いのにとエルシーネは思ったが、それもできないことも知っている。
なぜなら、デーメルン神はファルス神教の他の神々と比べて信力が強く、一説には主神ヴァンシル以上の実力があるともいわれている。そんな強い神を降格や追放などできるはずがないのだ。
故に忌み嫌われていても、デーメルン神の十二神としての地位は盤石なのだ。
「ふーん、まぁ神々の世界も地上と同じように胡散臭いということか」
罰当たりなことを平気で吐いたシャスターだったが、ケーニス神官総長は反論ができない。
「いずれにせよ、カリンさんは帝都でクラム大神官長にお会いするのが良いでしょう」
「分かりました」
カリンとしては肩の荷が降りた感じだった。
どうやら大神官長の道は閉ざされたらしい。勝手に持ち上げられて急に落とされた感も否めないが、カリンにとっては何よりの朗報だった。
とはいえ、冥界神とも契約できてしまったことに関しては、カリンはどうして良いのか分からなく不安だ。
そんなカリンの気持ちを知ってか、ケーニス神官総長は話を続けた。
「心配することはありません。カリンさん、心の中に向けて意識を集中してみてください」
言われたとおりに集中してみると、契約した時同様に神々の信力を感じることができる。
「信力を感じることができるということは、カリンさんは神々の神聖魔法が使えるということです」
ただデーメルン神だけは信力を感じることができない。
「先ほども話しましたが、過去にデーメルン神と契約した者は神聖魔法が使えませんでした。もしかしたら、デーメルン神は神聖魔法そのものが使えないのかもしれません。しかし、他の十一神の神聖魔法が覚えられるカリンさんには何の問題もありません」
ケーニス神官総長はカリンに向けて笑顔を見せた。
「ケーニス神官総長、色々と迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした」
「いえいえ、私の方こそ、カリンさんを振り回してしまい、申し訳ありませんでした。しかし、大神官長云々関係なく、カリンさんが神官として類稀なる能力を持っていることは確かです」
ケーニス神官総長は両手でカリンの肩を軽く掴んだ。
「帝都にお行きなさい。そこで神々の神聖魔法を覚えると良いでしょう。帝都には私から連絡をしておきます。クラム大神官長であれば、カリンさんが何をすれば良いのか、これから進む道を助言してくれるはずです
「ケーニス神官総長、ありがとうございます!」
三人はベックス大聖堂をあとにした。
ケーニス神官総長は三人が見えなくなるまでその場で立っていた。
皆さま、いつも読んで頂き、ありがとうございます!
少しの間、カリンの神官へのお話が続きましたが、これで一旦終わりとなります。
ファルス神教の神官レベルが高いだけではなく、十二神全てと契約出来てしまったカリンは、この後どうなるのでしょうか。
少し前の後書きでもお話しましたが、神々の力を使う者たちを神聖魔法の使い手と呼び、その神々でもファルス神教を信仰する神聖魔法の使い手を神官と呼びます。
よって、神聖魔法の使い手レベルと神官レベルは同じ意味となります。
また、ファルス神教の神官以外の神々を信仰する神聖魔法の使い手としては、巫女や僧侶、ドイルドなどが存在しますが、いつか登場するかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。
それでは、これからも「五芒星の後継者」をよろしくお願いします!




