第五十四話 最後の契約
(カリン……カリンよ……)
ぼんやりとした頭の中で、自分を呼ぶ声が聞こえる。朦朧としたまま、カリンはゆっくりと目を開けた。
しかし、目を開けても視界は真っ暗だ。ただ暗闇が渦のように動いており、カリンはその中を静かに流れているようだった。
「ここは、どこ?」
声に出したつもりだったが、声にはならない。
しかし、脳裏に囁いていた声には届いたようだ。
(カリン……)
「誰が私を呼んでいるの?」
しかし、声はカリンの質問には答えないどころか、勝手に話をしてきた。
(カリンよ、汝と契約することにしよう)
「ちょ、ちょっと、契約って……」
カリンは自分が置かれている状況が全く分からない。先ほどまで契約の部屋で神々と契約をしていたのだ。それが暗闇の見知らぬ場所で知らない声から契約なんて。
「……契約!」
ここでカリンは一気に思考が回転し始めた。
カリンは契約の部屋で、すでにファルス十二神のうち十一神と契約を済ませているのだ。
それなのに契約を求めてくるということは、その神は……。
「まさか!? あなたはデーメルン神……」
「カリンちゃん、しっかりして」
突然視界が明るくなり、目の前には心配そうに叫んでいるエルシーネがいた。
「……エルシーネ皇女殿下?」
「良かった!」
エルシーネがカリンに抱きつく、その衝動で後ろでカリンを支えていたシャスターが床に倒れ込んだ。
「痛たたた」
「ごめんなさい、シャスターくん」
「大丈夫。それよりも、カリン大丈夫?」
「うん、私は大丈夫」
それを聞いて皆ホッとした。急に倒れて一分間ほど気を失っていたらしい。
「私が悪いのです。一気に十神と契約をされたのです。疲れてしまったことに気付かず、申し訳ありませんでした」
ケーニス神官総長が平謝りをするが、カリンは本当の理由が分かっている。
「違うのです。実は……」
その時だった。
カリンの言葉に合わすかのように、デーメルン神の像が黒く輝き始めたのだ。
「なっ!?」
驚いたケーニス神官総長はそれ以上言葉が出ない。
なぜならデーメルン神が輝くことは、ケーニス神官総長でさえ初めて見る光景だったからだ。
あり得ないことが起きている。
「そのことについてお話します」
それから、カリンは意識がなくなっていた間に起きた出来事を静かに話し始めた。




