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第五十三話 冥界神

「デーメルン神ですね」


 ケーニス神官総長の表情が若干強張る。

 そして、その理由がここにいる誰もが分かっていた。当然シャスターも分かっていながら尋ねたのだ。


「知ってのとおり、冥界神デーメルンは他の十一神との関係性云々ではなく、他の神々から忌み避けられている存在です。理由はお分かりですよね、カリンさん?」


「ひとりだけ属性が異なる神だから、です」


「その通りです」


 生きる為の治癒や防御系の魔法を主とするファルスの神々において、死を扱うデーメルン神は異質そのものであった。

 あまりにも他の神と存在がかけ離れているため、デーメルン神は他の神話から来た神との説もあるくらいだ。

 さらにデーメルン神との契約は不可能とされてきた。ファルスの神官にとって、死を表すデーメルン神に適合する素質を持つ者など通常はいないからだ。



「長い過去の間にはデーメルン神と契約できた者もいたと聞いております。しかし、その者たちは当然ながら他の神々とは一切契約もできず、しかもデーメルン神特有の魔法が何なのかも分からず、結局神聖魔法の使い手(ホーリー・ユーザー)として能力も開花することなく消えていったそうです」


 だから、十二神と言われていてもデーメルン神以外の十一神しか像が置かれていない教会でさえあるのだ。



「だったら、カリンちゃんがわざわざ契約を試す必要ないじゃない?」


 エルシーネが的確なことを言う。

 確かに十一神と契約した時点でデーメルン神との契約はできないはずだ。であれば、契約の儀式をする必要がないのだ。


「エルシーネ皇女殿下の仰るとおりです。それでは、私の書斎でカリンさんの今後について話し合いましょう」


 再びケーニス神官総長が契約の部屋を出ようとしたその時だった。


「あっ……」


 カリンが突然小さな叫び声を発したかと思うと、その場に倒れ込んでしまった。


「カリン!」


「カリンちゃん!」


 慌てたシャスターとエルシーネがカリンを抱き抱える。

 しかし、カリンは意識を失い、そのままシャスターの両手の中に落ちていった。



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