第五十一話 神々との契約
「ちょっと、それってあまりにも無謀じゃない?」
エルシーネがケーニス神官総長に抗議の声を上げた。カリンの心内を代弁してくれたのだ。
「そもそもケーニス神官総長はどのくらいの神様と契約しているのよ?」
「七柱です」
さすが帝国の神官総長クラスになると、そんなにも多くの神々と契約できるのかとカリンは驚いたが、よくよく考えたらそれ以上の神々と契約するように言われているのだ。
と、そこで何かに気付いたケーニス神官総長は突然微笑み始めた。
「なるほど、理解しました。私はカリンさんに十二神全てと契約しなさいと言っているわけではありません」
「!?」
「通常であれば、信力レベルが徐々に上がっていく過程で自身に合った適正を見ながら神々と契約を試みるのです」
ケーニス神官総長はカリンを見つめた。
「しかし、カリンさんはそのような過程を一気に飛び越して信力レベルが三十五になってしまった。つまり、どの神々との適正が合うのかが一切分からないのです。それであれば、全員の神々と一度契約を試してもらうしかないのです」
ケーニス神官総長は全ての神々と契約しろと言っているわけではなく、試してみるとのことだったのだ。
ホッとしたカリンの前にケーニス神官総長が立つ。
「それでは契約の儀式を始めましょう。カリンさん、それぞれの神々の像の前で祈ってください。適正がある場合、像が輝き出します」
最初にカリンは主神ヴァンシルの前に立った。
ファルス神話で最高位の神であり、神々のまとめ役を担っている。
そのヴァンシル神の前でカリンは祈りを捧げた。しばらくするとヴァンシル神の像が赤く輝き始める。それと同時にカリンは自分の信力に新たな力が注ぎ込まれた感覚を感じた。
「主神ヴァンシルとの契約は、やはりできたようですね」
ケーニス神官総長が頷く。
ヴァンシル神は主神だけあって神官、つまり神聖魔法の使い手が一番多く契約できる神だからだ。
「それでは次にヴァンシル神の妻であり、豊穣の神ジュールにいきましょうか」
ケーニス神官総長に言われるがまま、カリンは隣のジュール神の前で祈り始める。
すると、今度もジュール神の像が黄色く輝く。
「ふむ。ジュール神も契約できましたね。これで三神との契約ができました。ここからが本番です」
神官で四神以上の契約者となると極端に減る。
だから、カリンもここから一神も契約できない可能性が高いのだ。
カリンはジュール神の隣に建っている軍神ティールの前で祈りを捧げる。
しばらくしてからティール神の像がオレンジ色に輝き始めた。
「これは、これは素晴らしい!」
ケーニス神官総長が驚く。
四神と契約したことにではない。ティール神と契約できたことだ。
「ファルス神話では主神ヴァンシルと軍神ティールはあまり仲良くありません。だから通常ヴァンシル神と契約できた者はティール神と契約ができないことが多いのです」
「そうなのですか?」
「珍しいことですね。さぁ、この調子で次のキリア神を行なってみましょう」
「はい」
カリンは月の女神キリアの前で祈ると、今度もまたキリア神の像が白く輝く。
「ほぅ、これで五神ですね」
ケーニス神官総長も感心し始めた。
「それでは次にいきましょう」
そして、カリンは休む間も無く次々と神々の像に祈り続けていった。
それから数分後、ケーニス神官総長の顔色がみるみるうちに変わっていく。
「これで十神が終わりましたね……」
言葉に出したケーニス神官総長は驚きを隠せないでいた。
さらにシャスターもエルシーネもケーニス神官総長と同様に驚いている。
カリンが十神と契約ができてしまったからだ。
元々契約していた聖母神ヒリスと合わせて十一神の像は、それぞれの色をまとって輝いていた。
「す、すばらしい、すばらしいですよ、カリンさん!」
我に帰ったケーニス神官総長が喜びの声を上げる。
その横でカリンは呆然としていた。
カリンの頭の中では、何が起きたのかまだ整理できていなかった。




