第五十話 ファルス神教 (& MAP)
椅子から立ち上がった人物の年齢は四十代位だろうか。
眼鏡をかけたやや細身の男性は、この部屋の雰囲気に溶け込んでいるようだった。
「久しぶりね、ケーニス神官総長。私が来てもあまり驚いていないようだけど」
エルシーネの問いかけに対してケーニス神官総長は小さく笑いながら立ち上がった。
「すでにシャイドラのユーゲン神官上長から連絡を頂いておりますよ。きっとエルシーネ皇女殿下は何の前触れもなく突然来るだろうから驚かないようにとも」
「なっ……」
言い返せないエルシーネをよそにケーニス神官総長は深々と頭を下げた。
「お初にお目にかかります、シャスター・イオ様。私はケーニス・バーナンと申します。非才ながらこのベックスの神官総長を勤めております」
「よろしく、ケーニス神官総長。で、こっちが同行しているカリン」
「カリンです。よろしくお願いします」
シャスターとは対照的にカリンは緊張している。
ユーゲン神官上長の時もそうだったが、カリンにとって目の前にいる神官は雲の上の存在なのだ。予めベックスの最上位の神官が神官総長だと聞いていたので、ユーゲン神官上長の時ほどには驚かなかったが、緊張は当然ながらしている。
ちなみに、神官総長は神官上長の一つ上の職位だ。四十代の若さで神官総長を務めているとはかなり有能なのであろう。
「カリンさんのことも聞いておりますよ。かなり有望な神聖魔法の使い手だと」
「そ、そんなとんでもないです!」
カリンはさらに緊張してしまった。顔が真っ赤になる。
「カリンちゃんのことを知っているのなら、私たちがここに来た用件も知っているのよね」
「はい。カリンさんの神聖魔法の契約ですね。場所を移動しましょうか」
ケーニス神官総長は三人を別の部屋に案内した。
「ここが契約の部屋です」
広めの部屋には等身大の像が何体も並んでいる。カリンはその像全てを知っている。
「主神ヴァンシル、その妻である豊穣神ジュール、軍神ティール、月の女神キリア……」
カリンが神々の名前を挙げていく。
この像はシャイドラの大聖堂にもあったが、ファルス神教の十二神を形取ったものだ。
ファルス神教とはこのアスト大陸で広く信仰されている宗教だ。エースライン帝国をはじめ周辺国のほとんどがファルス神教の神々を信仰していた。
そして、ファルス神教の神々から力を与えられた者が神聖魔法を扱える神官となる。
「これからカリンさんには、このファルス十二神と契約をしてもらいます」
「十二神全てですか?」
「はい」
にこやかに微笑むケーニス神官総長を見て、カリンは心の中でため息を吐いた。
ファルス神教の神聖魔法は基本的に防御や回復系の魔法が主ではあるが、その中でも属性を分けると十二種類になる。それがファルス十二神それぞれと結びついているのだ。
そして通常は神官、つまり神聖魔法の使い手が契約する神々は、二柱か三柱程度だ。というよりも、それ以上多くの神々とは契約ができない。神官個人と神々の適正があるからだ。
それなのに十二柱の神々全員とは、到底無理な話だ。
「ところで、カリンさんが今契約している神はどなたでしょうか?」
「聖母神ヒリス様です」
元々レベル三だったのだ、ひとりの神だけでも当然だった。
「では、ヒリス神以外の神々と契約をしてみましょう」
無茶難題を言っていることを知ってか知らずか、さらに微笑みながらケーニス神官総長はカリンを見つめた。
♦♢♦♢♦♢♦ シャイドラ周辺詳細MAP ♦♢♦♢♦♢♦
皆さま、いつも読んで頂き、ありがとうございます!
この回にはMAPをつけました。
国境都市シャイドラを中心としたザン将軍やシャスターたち、そしてゴブリンの動きも載せてみました。
これで、どのように進軍したのかが、分かって頂けるかと思います。
これからも楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
よろしくお願いします!




