第四十九話 ベックスの大聖堂
翌朝、シャスターとエルシーネとカリンの三人はベックスの街を歩いていた。
ザン将軍と護衛の騎士たちは宿屋で待機している。
星華はすでに早朝から単身でベックス中を駆け回って情報収集を行っていた。
シャスターたち三人は街にいくつかある市場の中を歩いていた。朝から活気がある市場は人とぶつかりそうなほど混んでいて賑わいを見せている。
ただ、三人は市場で買い物をしているわけではなく、ある目的地に向かって歩いていた。
「着いたわよ」
身分がバレないようにフードを深く被っているエルシーネが前方に目を向ける。
市場を抜けた先にあったのは大きな大聖堂だった。
「大きな大聖堂……」
シャイドラの大聖堂もかなり大きかったが、ベックスの大聖堂はさらにひと回り以上大きかった。
思わず見上げてしまったカリンにエルシーネが声を掛ける。
「それじゃカリンちゃん、行きましょ」
「あ、はい!」
カリンは慌ててエルシーネについていく。
大聖堂に来たのはカリンのためだった。カリンの信力レベルが三十五と急激にレベルアップしたからだ。
神聖魔法を扱う神聖魔法の使い手は、信仰する神々によって職業の呼び名が、神官、巫女、僧侶等々と異なっている。
ちなみにエースライン帝国をはじめアスト大陸で最も多くの人々が信仰する神々がファルス神教であり、そのファルス神教で神々に使える神聖魔法の使い手を神官と呼ぶのだ。
そんな神聖魔法の使い手の基となる能力……信力レベルが三十五となり、カリンの神聖魔法の威力は格段に上がったのだが、一方で扱える神聖魔法の種類となるとほとんど変わっていない。
なぜなら神聖魔法に関しては、信力がレベルアップしたからといって急に新しい神聖魔法が使えるようになるわけではない。
新しい神聖魔法を使えるようになるためには、神々と契約をしなくてはならない。
契約は神々との相性が悪いと当然ながら契約はできない。
神聖魔法の使い手の中には、レベルは高いが使える神聖魔法の種類が少ない者も多いのだ。
ゴブリンの本拠地で、カリンが習得していない動作停止の神聖魔法が偶然使えたのはアークスのおかげだ。
そう考えると、カリンは不安になってくるのだが。
「あれほどの信力なら大丈夫よ」
とエルシーネは褒めてくれる。それはそれでとても嬉しいのだが、正直カリンは自分自身にそこまで自信がない。
信力レベル三十五だってアークスのおかげであってカリンの能力ではない。
だから、全く神聖魔法の契約ができませんでした、なんてこともあり得ると思っていた。
「それじゃ、入るわよ」
大聖堂の大きな扉の左右には神官見習いが立っていて、扉を静かに開けてくれた。
大聖堂の中は大きな礼拝室となっていた。
礼拝室自体に豪華さはないが、天井が見上げるほど高く、いくつもある大きな窓からは陽の光が差し込んできて、それだけで礼拝室が神々しく感じられる。
礼拝室では朝にも関わらず大勢の人々が祈りを捧げていた。祈りを捧げている人たちの邪魔にならないように一番後ろの角に座った三人だったが、ほどなくして数人の神官が目の前に現れた。
「どうぞ、こちらへ」
神官たちが近くの扉を開けて入っていく。
三人もその後をついていくと長い廊下に出た。廊下の左右には等間隔で扉がある。いくつもの部屋があるのだろう。
そして、廊下の先にも扉があり、そこで廊下は終わっていた。
「こちらでございます」
神官が静かに扉を開け三人を中へと促した。
その部屋は年季の入った重厚な造りだった。さらに礼拝室と同じように天井から光が差し込んでいて厳かな雰囲気を出していた。
そして、その中に同化するかのように、ひとりの人物が座っていた。
「お久しぶりでございます」
椅子から立ち上がったその人物は深々と頭を下げた。
皆さま、いつも読んで頂き、ありがとうございます!
今回は大都市ベックスの大聖堂に着いたカリンのお話でした。
神聖魔法の使い手については、シャイドラの大聖堂でも少し記載をしましたが、今回少し細く説明を入れました。
神聖魔法の使い手は神聖魔法を使える人たちの総称です。そして、信仰する神々によって職業名が変わってきます。
神官はファルス神教を信仰する神聖魔法の使い手の呼び名となります。
また、神聖魔法を行使するための能力が信力となります。
魔法使いは総称で、属性によって火炎系魔法使いや水氷系魔法使いなどと分かれているのと同じだと考えて貰えればと思います。
そして、魔法使いでいうところの魔力が、神聖魔法の使い手の信力です。
いつか、巫女や僧侶やドイルドなどの神聖魔法の使い手も登場させてみたいなと思っています。
それでは、皆さま、これからも「五芒星の後継者」をよろしくお願いします!




