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第四十七話 巨大都市ベックス

 その日の夕方、一行は大都市ベックスに到着した。



 ベックスはシャイドラ以上に巨大な都市だった。

 規模でいえば、シャイドラの四倍ほどの広さの超大都市だ。ただし、防壁はシャイドラほどには高くなく強固な造りでもない。

 国境に建てられた要塞都市と、国内に建てられた大都市の差だと、ザン将軍が説明してくれた。

 それでも近づいて間近で見ると、カリンが見上げるほどの高い防壁だ。


 ベックスの東西南北には大きな門があり、夕暮れ時にも関わらず、門からは多くの旅人や商人たちが出入りしていた。

 そんな中、一行が通る南門の入口から少し離れたところに、目立たないように立っている者たちがいた。

 予め連絡を受けていたベックスの城主だ。



「お初にお目にかかります、イオ魔法学院の後継者様。私はベックスを預かっております、アクスト・メックと申します」


「シャスター・イオです。よろしく」


 カリンにとって雲の上の存在の人々がシャスターに頭を下げている。カリンにとって当たり前の光景になりつつあるが、それでもやはりまだまだ慣れることはない。


「エルシーネ皇女殿下、ザン将軍もよく参られました。今夜はゆっくりと旅の疲れを癒やしてください」


「ありがとう、アクスト殿。ただ、私たちは急いでいるので過剰なもてなしは要らないわ」


「分かっておりますよ、エルシーネ皇女殿下」


 アクストと呼ばれた初老の人物は心得たとばかりに微笑んだ。


「宿屋の一つを貸切にしておきました。そこなら護衛の方々も一緒に休むことができるでしょう」


「アクスト殿、かたじけない。助かります」


 ザン将軍が頭を下げた。


「なんの。それでは私はこれで失礼します。道中お気をつけて」


「お心遣いに感謝するわ」


 アクストはそのまま門の中へ消えて行った。

 エルシーネとザン将軍はシャスターの存在を帝都到着までは公にしたくはない。アクストもそのことは心得ている。

 そこで一行の歓迎を行わず、さらにエルシーネとザン将軍が来ていることも住民たちには知らせずにいた。

 それでアクスト自身もひっそりと隠れるように一行を待っていたのだ。そして宿屋を貸し切りにすることによって、一行が同じ場所に泊まることができ守秘性も守られる。


「さすが、アクスト殿、我々の望むことを分かっておられる。この巨大都市を長年にわたって任されているお方だ」


 ザン将軍の口調からは老人に対しての敬意が感じられる。


「さて、アクスト殿の好意に甘えて今日はもうゆっくり休みましょう」


 エルシーネの掛け声で全員が宿屋に向かった。




 百人程度の騎士が馬に乗って歩いていても、街の人間は気にもしない。同規模の兵士の集団が幾つも常に都市の内外を巡回しているからだ。

 さすがにエルシーネのペガサスは目立つので羽を布で隠したが、それでも大通りには馬以外の珍しい騎獣に乗っている者もいる。

 そもそも大都市ベックスの大通りは馬車が横に数台並んだとしても余裕で進める程に広く、一行が邪魔になることもない。


 カリンは初めてづくしの光景に目をウロウロさせている。

 シャイドラも凄かったが、ベックスは街の広さ、建物の高さ、人通りの多さなど、さらに輪をかけて凄い。


 そんな光景をカリンが見とれているうちに目的の宿屋に到着した。



「これが宿屋……なの?」


 宿屋にたどり着いたカリンが建物を見上げながら驚く。

 そこはとんでもなく大きな宿屋だったからだ。レーシング王国の城よりも大きそうだ。

 宿屋に百人分の馬を預けても厩戸はまだまだ余裕だ。建物の中は一階と二階がレストラン施設、三階から十階までが宿泊施設となっていた。


「わぁー、凄い!」


 レーシング王国で宿屋といえば、高級な店でもせいぜい二、三階建ての建物だった。

 しかし、さすがエースライン帝国だ。規模が違う。まるでお城のようだ。



「ほら、カリン。部屋の鍵だよ」


「う、うん」


 鍵を受け取ったカリンはシャスターたちと一緒に最上階の十階に向かおうとするが、皆が階段ではなく箱型の小さな部屋に入っていく。

 不思議に思いながらもカリンもその部屋に入ると、突然その部屋が上に向かって動き出した。


「えっ!? わぁ、これ何!?」


 驚き慌てるカリンだったが、間もなくして動いていた小さな部屋が止まり扉が開く。

 急いで小部屋から出たカリンの目の前には、ガラス越しにベックスの街並みが眼下に広がっていた。

 すでに最上階に到着していたのだ。


「そうか、カリンは初めてか。この小さな箱型の部屋は昇降して各階に移動してくれるマジックアイテムを応用した装置だよ」


「……とても便利ね」


 驚き過ぎて、逆に平凡な感想しか出てこないカリンだった。




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