第四十五話 皇帝からの招待
陽動のゴブリン軍を倒したことなど、エルシーネにとっては勝利した内には入らない。
だからこそ、わざわざ帝都に戻ってまで報告する必要はないと思っていたが、皇帝の命令は絶対だ。
それに兄に文句を言うにはいい機会だ。
「分かったわ」
了承の意を伝えて食事に戻ろうとしたエルシーネだったが、勅令はまだ続いていた。
「それと、シャスター・イオ殿もご一緒に国賓としてお招きしたい、とのことでございます」
自分とは関係ない話だと思い食べ続けていたシャスターの手が止まった。自然と全員の視線がシャスターに集まる。
「了解、と皇帝に伝えておいて」
すると、また食べ始めた。
「はっ! 承知致しました」
伝令の騎士は速やかにその場を立ち去る。
その騎士の後ろ姿を目で追っていたエルシーネだったが、部屋から出て行くのを確認すると視線を戻した。
「少し意外だったわ。父上に呼ばれるのは面倒だから断るかと思ったの」
「断ることなんてしないよ。フローレの件もあるし」
どのみちシャスターは帝都には行かなくてはならない。それであれば、旅人として行くよりも国賓として招かれる方が、フローレの魂眠を解く方法を探すには融通が効く。
シャスターはカリンに目を向けた。
「カリン、もうすぐだ。フローレの魂眠について、エースライン帝国の神官や学者たちなら何か分かるはずだから」
シャスターは「死者の森」での出来事を思い出していた。
シュトラ王国の神官長だったアークスは、古い文献に載っていた情報を基に短剣のマジックアイテムを造り、その短剣の力でエミリナ女王の身体から魔女ディネスの魂を引き離した。
フローレの陥っている「魂眠」とは身体に魂を戻すこと、短剣とは逆のことなのだ。その文献を見れば「魂眠」のことが分かるかもしれない。そして文献の出典所がエースライン帝国なのだ。
エースライン帝国に行けば、魂眠を解く方法が見つかる可能性が高い。
「うん!」
カリンは目を輝かせた。
あと少しでフローレが目を覚ますことができる。
しかし同時に寂しさも感じ始めていた。これで旅は終わってしまうからだ。こんな刺激的な旅は二度と体験することはできないだろう。
「それでは今夜はゆっくり休んで、明日出発することにしましょう」
ザン将軍の提案に一同が頷く。
そして、晩餐会は遅くまで続いていった。




