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第二十五話 騎士団長と傭兵隊長

 シャスターは領主デニムの部屋の扉を叩くと中に入った。執務室ではなく、フェルドが燃えている映像を映している鏡が置かれた謁見の間だ。


 そして、部屋の中央には豪華な椅子に座っているデニムの姿があった。

 さらにデニムの前には片膝をついて座っているエルマがいた。呼ばれていたのはシャスターだけではなく、エルマもだった。

 シャスターもエルマの隣で片膝をついて頭を下げる。


 しかし、すぐにデニムは二人の面を上げさせた。



「今日お前たちを呼んだのは他でもない。十日後に王都で三者会合が行われる」


 三者会合とは、オイト国王と領主であるデニムとラウスの三人での話し合いで、年に一回行われていた。

 シャスターは星華からその話を既に聞いていたが、もちろんそんなことは口にしない。


「そこでだ、今回もお前たち二人、騎士団長と傭兵隊長を連れて行くので、道中の護衛をせよ」


 当然、断る選択肢はない。二人とも頭を下げて了解した。



 出発は八日後の午前とのことだった。馬車なので速度はゆっくりだが、それでも次の日の午後には首都に着くことができる。


「ほかに護衛の者たちはどうしましょう?」


「必要ない」


 シャスターの問いにデニムはつまらなそうに答えた。

 デニムは魔法使い(ウィザード)として戦闘力に自信があった。それは自惚れではなく、エルマをはじめ自他共に認める強さだった。だからこそ、多くの護衛をつけることはしない。シャスターとエルマがいれば充分なのだ。


「お前たちも俺を護衛する必要はない。一緒についていく文官どもを守ってやれ。以上だ」


 二人は部屋を退出した。




 廊下を一緒に歩きながらシャスターとエルマは無言だったが、しばらくするとエルマが声を掛けてきた。


「最近、お気に入りの女を連れ回しているようだが、この前の侍女か?」


 フローレのことはすでに多くの者が知っている。それは敢えてシャスターが出掛ける時に連れて行くようにしているので、当然と言えば当然なのだが。


「騎士団内しか連れていないのに、相変わらず隊長は情報がはやいね」


 エルマお抱えの盗賊ギダが諜報活動しているからだが、もちろんそんなことをエルマは口にはしない。


「俺の耳に入ってくるほど噂が広がっているということだ。お前ぐらいの年頃なら遊び過ぎて疲れることはあるまいが、ほどほどにしておけよ」


 エルマは豪快に笑った。

 しかし、すぐに反撃を喰らうことになる。


「隊長には好きな人はいないの?」


 ストレートに聞いてきたシャスターにエルマは答える術を持っていなかった。

 何も言えない傭兵隊長を見て少年はニヤニヤ笑う。


「隊長は奥手だね」


 エルマはシャスターよりも十歳以上歳上だろう。

 見るからに力強さを醸し出している容姿だけでなく、人を惹きつける魅力を持っている。だからこそ、傍若無人な傭兵たちもエルマに従っているのだ。

 そんな傭兵隊長ならモテないはずがないのだが、エルマに関して浮いた話は聞こえてこない。


「俺の恋人はこの国だ」


 などど、カッコいい台詞を言ってみたが、「自分の言葉に陶酔しているだけ」とシャスターに一刀両断されてしまった。



 何も言い返せないエルマと一緒にしばらく廊下を歩いていたシャスターだったが、急に何か思いついたように足を止めた。


「そうだ! 領主様に言い忘れたことがあった」


「なんだ?」


 エルマも足を止めるが、シャスターはエルマを無視してそのまま引き返す。


「おい、シャスター?」


「それじゃ、隊長またね!」


 後ろを振り向きながら手を振るシャスターを訝しげに見つめながら、エルマは大きく息を吐いた。






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